88 ジェフリー
ジェフリーは、リョウの並べたブラッドウルフを1匹ずつ検分していく。
「たしかに、これは全て同じ者が倒してるな」
「わかるのですか?」
リョウが尋ねる。
「ああ、矢の跡や火魔法で焦げた跡もない。しかも、全て1太刀だ。
とんでもなく切れる剣と、とんでもない腕の持ち主がやったな」
「そんなにほめられても・・・」
ちょっと照れるリョウ。
「事実を言ってるだけだ。別にほめたわけじゃねぇ」
そうは言うが、リョウの腕を認めたことには違いない。
「買い取り金額は、どれぐらいになるかね?」
グレアムが聞く。
「普通なら、1匹大銀貨3枚弱というところだが、これらは
斬った部分以外損傷がないし、このボス狼は特に上物だ。
全部で金貨8枚半・・・いや9枚だな」
普通の約2割増しである。
「そうか、では・・・」
グレアムがリョウに向き直って言う。
「リョウ様、全部で金貨10枚で引き取らせていただきます」
「え?!いえ、9枚で充分ですので」
上乗せされた金額を辞退するリョウ。
「いえ、リョウ様に後で『他の店やギルドで売ればよかった』などと
思わせるわけにはいきません。今後ともよろしくお願い致します」
「それでは、ご厚意に甘えさせていただきます。ありがとうございます」
素直に厚意を受けることにする。
「すまねぇが・・・」
ジェフリーがリョウに言う。
「こいつらを倒した武器を見せてはくれねえか?!」
「それは、なぜですか?」
とリョウ。
「こんなきれいな切り口は、今まで見たことがねえ。
どんなもので斬ったか、知りたいのは当然だろ?!」
「そういえば、ジュリアも見たがっていましたわね?!」
というオリビアの言葉にジュリアは、
「はい、すばらしい業物でした。神器というものがあるのなら
まさにそれかと」
思いっきりハードルを上げてくる。
「そんなにすごい武器なのですか?!!」
グレアムも見たいようだ。
リョウは、少し考えて言う。
「わかりました、見せましょう。その代わり、この剣に
関する質問や要求は一切ナシでお願いします」
「わかった。見せてもらえるなら文句はない」
ジェフリーが言う。
「他の方も、それでいいですね?」
リョウの問いに全員がうなづく。
そして、リョウが剛斬丸を収納バッグから抜く。
「「「「「 !!!! 」」」」」
近頃では、リョウもこの反応に慣れてきていた(笑)。
正直、ここまですごい武器って、必要だったのだろうかと疑問である。
もしかしたら、グラダインは本当にリョウをドラゴンと
戦わせたいのかもしれないと、邪推してしまうほどだ。
(邪推だったらイインダケドナ~~・・・)
どこかのラッコのように考えているうちに、怖い考えになってしまった。
「こ、これはいったいどこで・・・」
グレアムが言う。
「質問はナシの約束ですよ」
「あ、すみません」
グレアムが謝る。
「では、これぐらいで・・・」
2~3分見せた後、剛斬丸を収納バッグに入れる。
「じゃ、時間もなくなってきたので。オリビア様、学園に
行きましょう。グレアムさん、ブラッドウルフの代金は、
次に来たときに受け取りますので、これで失礼します」
ちょっと長居しすぎたと思ったリョウはそう言って、
女性たちを促す。
店に入ってから、すでに1時間近くたっていた。
「リョウ様、婚約指輪は・・・」
と、オリビア。
「ていっ!」
オリビアの額に軽くチョップするリョウ。
「ふぎゃ」
かわいらしい声をあげるオリビア。
「リョウ様、ひどいですわ」
そう言いながらも、なぜか微妙に嬉しそうなオリビアである。
「いつまでも、変なことを言うからです」
そう言って、改めてグレアムたちに会釈する。
「はい、リョウ様、お待ちしております」
グレアムが礼をしながら言う。
「待ってくれ、頼みたいことがある」
ジェフリーが呼び止めるが、
「すみません、時間がないので、今度来たときで。
一両日中には伺いますので」
リョウは、そう言って女性たちと共に立ち去った。
一両日という言葉は、『今日と明日』と『明日と明後日』
という2つの解釈があり、どちらも間違いではないそうです。
だから、解釈の違う人たちが『一両日中に』と約束をして、
「一両日と言ったじゃないか!」
「だから、一両日中に来たでしょ」
なんて、トラブルもありそうですね。




