87 グレアム
応接室には、ロマンスグレーの紳士が待っていた。
「支配人のグレアム・ヒクソンです。よろしくお願いします」
苗字があるということは、貴族の出身なのだろう。
平民は教育水準が低いので、こういう大店の重要な地位は、
家を継げない次男・三男などがやることが多いそうだ。
「リョウです、よろしくお願いします。こちらは、ノーレッジ子爵家
令嬢のオリビア様です」
「オリビアでございます」
オリビアが挨拶のカーテシーをする。
挨拶の後、ソファーに座る。
護衛のジュリアとメイドは立ったままだ。
「リョウ様は、異国から来られた賢者様だそうで」
グレアムが話し始める。
紹介状には、丁重に対応して、気がついたことがあれば
アドバイスをもらうこと。
また、欲しいものがあれば値引きをすること、場合によっては
原価や無料で提供してもよいとあった。
この単に人のよさそうな若者が、それほどの知識があるのか疑問に思う
グレアムであるが、アンジェリカの指示に従わないわけにはいかない。
「たまたま私の国のほうが文明が進んでいるだけで、
賢者と言われるほどのことはないんですが・・・」
ちょっと謙遜するリョウである。
「ただ、私が持っている知識だけでも、いろいろとお役に
たてることがあるようなので、ガリア家では相談役みたいな
ことをやっていますし、メイフィールド家からも協力してくれと
言われております」
「それは、心強いですな。さらにノーレッジ子爵家にも協力を?!」
グレアムがオリビアに聞く。
「いえ、私はこの王都への街道でブラッドウルフに襲われるところを
たまたま助けていただいて、そのまま護衛をお願いしただけです。
出来れば子爵家にも協力していただきたいのですが・・・」
「ブラッドウルフですか、それは大変でしたな。
メイフィールドから王都への街道が比較的安全と言っても、
たまに、はぐれウルフがでますからな」
「いえ、20匹以上の群れでしたわ。それをリョウ様はお一人で
全滅させたのです」
「は?!」
グレアムが変な声をだす。
「1人で20匹以上のブラッドウルフの群れを?!じょ・・・
そ、それはすごいですな。狩ったウルフがあるのなら素材を
買い取らせていただきたかったです」
『冗談でしょう』と言いかけたが、アンジェリカの指示を思い出し
あわてて、取り繕うグレアム。
「いいですよ」
「え?!」
「収納バッグに入っていますので、買い取りをお願いします」
リョウは普通にここで買い取りしてもらえるなら、冒険者ギルドで
売るよりもいいだろうと返事をしたのだが、
「わ、わかりました。加工場へご案内します」
グレアムは、まさか本当にあるとは思わなかった。
「おう、グレアムさん、ブラッドウルフの買い取りだって?!」
加工場に入ると、中年のごつい大男が声をかけてきた。
店員に先に連絡してもらっていたのだ。
「ああ、ジェフリー、奥方様のご紹介のリョウ様だ。
失礼のないようにな」
グレアムが言う。
「リョウです、平民ですのであまり礼儀などはお気になさらずに。
よろしくお願いします」
「お!そうか。貴族みたいな服を着てるから、ちょっとビビっちまったよ。
ここの主任のジェフリーだ、よろしくな」
「ああ、これはこちらの貴族のお嬢様をエスコートするために
着ているだけですので」
オリビアがジェフリーに会釈する。
「おお、こりゃべっぴんさんだ。なるほど、そりゃ兄ちゃんも
気合を入れてエスコートするわな」
ジェフリーは、豪快にガッハッハと笑う。
「それで、ブラッドウルフですが、どこにだせばいいですか?」
「おう、ここに置いてくれればいいぜ」
リョウはジェフリーの示した床に、数えやすいように、
5匹を1列にしてブラッドウルフを並べて置いてゆく。
4列と1匹並べたところで、
「これで最後です。この群れのボスだったみたいですね」
と、ひときわ大きいブラッドウルフを置く。
「おい、こりゃいったい何人で狩ったんだ?!」
「私1人ですが」
ジェフリーに答えるリョウを見ながらグレアムは、
あらためてアンジェリカの指示に従うことを決めるのであった。




