86 ジュエリー
『たまに連日』の更新を再開後すぐにやってしまうのですv
「じゃ、行ってきます」
店内に入るのは、リョウと女性3人である。
リョウは、イレーヌから貰った貴族服を着ている。
護衛の半分は馬車置き場で馬車の見張りをしており、
残りの半分が店の前で待機である。
ドミニク商会は売っている物が多いので、商品によって売り場が
違うようになっている。
小売商用の卸売りもやっているそうだ。
今回は女性陣の希望により、宝飾品売り場に行くことになった。
「いらっしゃいませ」
初老の店員が出迎える。
「こんにちは。アンジェリカ様から紹介状をいただいてきましたので
店長さんに取り次いでいただけますか」
紹介状を差し出すリョウ。
(単にアンジェリカと言われても、どこのご家中の・・・?)
紹介状の名前と封印を確かめる店員。
「え?!奥方様!」
自分のところの家中のアンジェリカであった。
驚いて店員がリョウをよく見ると、ガリア家の略紋のついた服を着ている。
ガリア家がアンジェリカの実家だということは、当然彼も知っている。
そして、お似合いの年頃の貴族の女性をエスコートして、宝飾品売り場に
来ているということは・・・。
(奥方様の親戚の方が恋人にプレゼントを買いに来られたのか!)
と、勝手に思い込んでしまった。
「すぐに店長を呼んで参ります。その間、商品をご覧に
なっていて下さい」
店員は、女性の店員を呼び、紹介状をただちに店長に読んでもらうように
指示して、自分はリョウたちの相手をする。
店員はいろいろと見せてくれるが、正直リョウは宝石なんかに
興味はない。
知識にしても、ルビーとサファイアは色が違うだけで同じものだとか
ダイヤモンドは炭素が正四面体構造で結合したものだとかいう科学知識で、
価値や値段なんてまるっきりわからない。
逆にオリビアは見せられるジュエリーを嬉々として見ている。
ジェリアとメイドは、近くで見ることのできるオリビアを
うらやましそうにしながらも、やはりジュエリーに目が釘付けである。
もっとも、ジュリアはスキルで近くで見ているも同然なのだが、
ジュエリーに気をとられて、護衛のほうは大丈夫なのだろうか。
説明を受けているうちに、リョウはあることに気がつき言う。
「ダイヤモンドは扱ってないのですか?」
そう、ダイヤモンドがないのである。
「ダイヤモンドは硬くて加工がしにくく、色も透明で見栄えが
よくないので、扱っておりません」
宝石の加工は主に土属性の魔法職人がやるそうだが、ダイヤモンドは
硬いため普通の職人では加工することさえ出来ないそうだ。
しかも、熟練の職人が苦労して加工しても人気がないため
値段が安く、割りに合わないということである。
「リョウ様は、ダイヤモンドがお好きなのですか?!」
オリビアが聞くが、
「いえ、ちょっと気になっただけです」
と、ごまかす。
アンジェリカに、アドバイスがあったらしてくれと言われていたが
いきなり、ネタを見つけたかもしれない。
ただ、今回はオリビアたちがいるので、情報が漏れる可能性がある。
それを伝えるのは、次に来たときになるだろう。
「このブルーサファイアは、お客様の瞳の色と同じなので
特別な方への贈り物として最適かと存じます」
店員が直径1cmほどのサファイアを出してくる。
自覚がないので忘れていたが、言われてみれば、
今のリョウの瞳の色は青であった。
「リョウ様!この石で婚約指輪が欲しいですわ!!」
オリビアがまたとんでもないことを言い出す。
「いや、婚約とかしてないでしょ!」
「じゃ、婚約してない指輪でいいです」
「そんな変な指輪、この世に存在しません!」
「リョウ様、私には側室指輪をお願いします」
ジュリアもわけがわからないことを言い出す。
「じゃ、私は愛人指輪で!」
メイドさんまで参加してきた。
「おやおや、おモテになりますな」
店員の生暖かい視線が痛い。
さらに、他の客の視線が追い討ちをかける。
収集がつかなくなりそうなところに、さっきの女店員が来て
店長が応接室で待っていると告げる。
助かったと、女性たちを急き立てて、女店員の案内で
応接室に向かうリョウであった。




