76 疑惑
「お待たせしました」
リョウが着替えたのは、お気に入りの学者スタイルである。
ただ、眼鏡はかけていない。
「まあ!」
オリビアが声をあげる。
「知的な感じで、とてもハンターには見えませんわ」
「賢者と呼んでくださっても結構ですよ」
リョウがおどけて言う。
「あら!おほほほ・・・」
オリビアがオホホ笑いをするが、まだ若いのでイマイチ
似合っていない。
そのうち、アンジェリカ並みになるのだろうか?!
ジュリアはというと、リョウの学者スタイルを見て、また
赤くなっている。ギャップ萌え属性もあるのかもしれない。
「では、出発しましょう」
オリビアがそう言い、馬車へ乗り込む。
もちろんリョウは紳士であるので(笑)、手を取りサポートする。
そしてメイド、ジュリアと続き、最後にリョウが乗り込む。
一行は、今夜の宿泊予定の街に向かって出発した。
「ところで、王都までのこの街道は安全だと聞いていたんですが・・・」
リョウがオリビアに尋ねる。
「確かに、縄張りからはじきだされたハグレ狼ならともかく
20匹以上の大きな群れがでるというのは、珍しすぎますわね」
ブラッドウルフはその名前の通り狼の習性を多く持っている。
こんな街道の近くに縄張りがあれば、掃討されているはずだし
群れが分裂して新しい縄張りを求めてきたのなら、数が多すぎる。
あるとするなら、この前の骸骨竜のときのように
強力な他のモンスターに追い立てられたかぐらいだが・・・。
「あのブラッドウルフの群れ、真っ直ぐこの一行に向かって
来ていましたし・・・」
サーチにひっかかった1.5kmほど先から、狼まっしぐらであった。
「これが人為的なものだとすると、魔物使いですね」
ジュリアが言う。
「ブラッドウルフは縦社会ですし、単体の戦闘力は低めなので、
使役しやすい部類だと聞いたことがあります」
「そんなスキルがあるんですね・・・だとすると」
リョウがオリビアを見る。
「ええ、魔物使いだとすると、狙いは私でしょうね」
オリビアが答える。
「狙われる覚えがおありで?!」
「貴族ですもの、敵はいくらでもいますわ。特に、身内に」
オリビアは自分を狙う者の見当がついているようだ。
そして小さな声で、
「まったくしょうがありませんわね」
と言い、ため息をつく。
「そういえば、リョウ様は、なぜモンスターがいることが
おわかりになったのです?」
ジュリアが聞いてくる。
「まさか、私より強力な視覚強化スキルを?!」
「いえ、私のはスキルじゃなくて魔法の応用ですね」
「魔法?!」
「詳しくは秘密ですが、魔法で位置や大きさを感じることが
出来るのです。何かまではわかりませんが。例えばあそこ・・・」
窓の外を指差すリョウ。
「木の近くに体長2~30cmの生き物がいますね」
その方向を見るジュリア。
「た、たしかにウサギがいます・・・」
「この魔法を私はサーチと呼んでいます。
王都まで私がサーチしてジュリアさんが確認すれば、
危険は、ほぼ回避出来るんじゃないかと思います」
オリビアは少し考え、言う。
「それって、2人が組んだら見張りは完璧じゃありませんこと?!」
「確かに! リョウ様が護衛を引き受けてくださったのは、
まさに天の配剤です!!」
剣の腕前に身体強化、サーチという魔法、ジュリアの中で
リョウの評価がうなぎのぼりである。
「敵の回し者かもしれませんよ?!」
リョウが冗談を言ってみるが、
「だったら、ブラッドウルフを倒す必要がありません!」
たしかにそうである。
「ともかく、ブラッドウルフが魔物使いのせいだとすると
次の襲撃も覚悟しておかないといけませんね」
オリビアを見捨てて先に行かなくてよかったと思うリョウであった。
まあ、先に行ったら行ったで、知らないうちに刺客を
排除してたとかになりそうですがw




