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オリビアたちの前まで来たリョウは、右手を左胸にあて
軽く頭を下げる。
「Bクラスハンターのリョウと申します」
「「「「 え?! 」」」」
護衛たちが軽くざわめく。
「どうかしましたか?」
挨拶の仕方でもまずかったのかと思い、リョウが聞く。
「いや、あまりの強さにAクラス、もしかしたら
Sクラスかも・・・と話していたんだ・・・」
護衛隊長が説明する。
「ああ、1週間ほど前にハンター登録をしたばかりですので」
そういうことかと、ちょっとほっとしながら言う。
「「「「 一週間前?!!! 」」」」
再び驚く護衛たち。
「ガリア辺境伯様が、推薦状を書いてくださいましたので」
「「「「 !!!! 」」」」
さらに驚く護衛たち。この短い時間に何回驚けばいいのか。
ガリア辺境伯・シュタイナーはこの国で一番の武人と言っていい。
そのシュタイナーに認められるということは、間違いなく
超一流の戦士ということだ。
もちろん嘘という可能性もあるが、実際に実力を見ているので
その可能性はとても低いし、そんな嘘を言う必要性もない。
「なるほど・・・挨拶が遅くなりました、私はノーレッジ子爵家
長女、オリビアと申します。おかげで危険を避けられました。
ありがとうございます」
「いえ、お役に立てたのなら幸いです。では・・・」
そして、リョウがその場を去る言葉を言おうとしたとき、
「リョウ様はどちらに行かれますの?」
オリビアが質問してきた。
このまま、さようならとはいかないようだ。
「王都に行く予定ですが・・・」
「まあ、私も王都の学園に戻るところですの。相場の報酬を
お支払いしますので、護衛を引き受けていただけませんこと」
凄腕のハンター。しかも、ガリア辺境伯と繋がりがあるなら、
最低限、情報だけでも手に入れておきたいオリビアである。
リョウもそのへんは察しているが、相変わらず、この年頃の
女の子には妹を思い出して、甘くなる。
しかも、学園に帰るということは・・・
「ガリア辺境伯様のご子息やメイフィールド伯爵様のご令嬢は
ご存知ですか」
「ウォルター様とパルマ様ですわね。学園の有名人ですもの
当然、存じておりますわ」
(有名なのか・・・まさか悪い意味じゃないだろうな・・・?!)
ちょっと不敬なことを思ってしまうリョウ。
「わかりました。馬車に乗せていただけて飲食と宿泊費を
払ってくださるなら、特に報酬はいりません」
ここで断って、オリビアに何かあったら、ウォルターやパルマに
会ったときに何と言っていいのかわからなくなる。
「まあ、それでよろしいんですの?」
「はい、実は、ウォルター様とパルマ様への手紙を
預かっておりまして、ついでですので」
手紙を取り出し、オリビアに封蝋がよく見えるように差し出す。
「その印は確かに辺境伯様と伯爵様のもの・・・では、
学園までご一緒していただけますのね」
(メイフィールド伯爵とまでつながりがあるとは)
オリビアは、ますますリョウに対する興味が増した。
「はい、よろしくお願い致します」
辺境伯や伯爵から手紙を託されるほどの信頼があると示せたので、
護衛たちのリョウへの警戒もゆるんだようだ。
「では、この格好では無粋ですので、馬車の陰で
着替えさせていただきます」
そう言って馬車の裏に回ろうとしたリョウを、
「あの、すみません!」
ジュリアが呼び止める。
立ち止まり、振り返るリョウ。
「そ・・・その・・・、あなたの大剣をもう1度見せて
くださいませんか?!」
「もう1度??」
ひっかかった言葉を繰り返すリョウ。
「ジュリアは視覚強化持ちなので、さきほどの戦いを間近のように
見ていたのです」
オリビアが説明する。
「すばらしい戦いぶりだったのでしょうね。うっとりとして
見ていましたわよ」
そして、からかうように言う。
「お嬢様!!」
顔を真っ赤にするジュリア。
「そ、それは光栄ですが、ここでは何ですから、
お見せするのは今夜の宿泊場所で・・・」
リョウも少してれながら言い、馬車の裏に逃げる。
「あらら」
(あの堅物のジュリアが・・・これはちょっと面白いかも?!)
オリビアは、恋愛物語が大好きな耳年増少女であった。




