74 ブラッドウルフ
「何?!」
あわてて騎馬の護衛が前方を見るが何も見えない。
「貴様!適当なことを・・・」
護衛がリョウに文句を言いかけたとき、
「確かに何かいます!1kmほど先です!」
馬車の窓から身を乗り出し、ジュリアが叫ぶ。
「ジュリア、本当か?!」
別の騎馬の護衛が聞く。
「隊長!間違いありません。少なくとも10匹はいます」
ジュリアが答える。
「全体停止!!」
隊長と呼ばれた護衛が指示を出す。
一行は停止するが、モンスターはこちらに向かっており
ジュリア以外の者も視認できるようになった。
「ブラッドウルフです!数、およそ20!!」
ジュリアが報告する。
「20!!!」
ブラッドウルフと言われる狼型モンスターは、単体ならば
それなりの腕があるハンターなら1人でも倒せないこともない。
しかし、普通は10頭以上の群れで行動し連携をとるため
下手な大型モンスターより危険度は上であった。
今回はそれが20頭以上いた。
「隊長!どうします?」
護衛の1人が指示をうながす。
しかし、その隊長と呼ばれた男が何か言う前に、
「私が先行して片付けますので、打ち漏らしたやつを
お願いします!」
リョウがそう言って、ブラッドウルフに向かってダッシュする。
「「「 え???!!! 」」」
護衛たちは、唖然としてモンスターに向かうリョウを
見送るしかなかった。
剛斬丸を抜き放つリョウ。
「とりあえず、囲まれないことか・・・」
そのまま走る速さをのせて、一気に振り抜く。
ギャン!!!
断末魔の叫びをあげ、4匹のブラッドウルフが命を落とす。
リョウは立ち止まらずにそのままブラッドウルフの群れの中を
駆け抜ける。そして、右に大回りして再び群れに突入する。
再び剛斬丸を一閃、今度は3匹だ。
そうやって、とにかく立ち止まらず、囲まれないようにして
1振りで2~4匹を倒していく。
普通ならブラッドウルフの素早さと連携に惑わされるはずだが、
身体強化しているリョウは素早さで完全に上回っており
ブラッドウルフの攻撃を難なくさばいていく。
残り5匹ほどになったところで足を止め、ボスらしい大きめの
1匹と対峙する。
他の1匹がリョウの後ろから襲い掛かるが、リョウは
サイドステップして振り向きながら両断する。
それを隙と見たのかボスが飛び掛るが、リョウは振った剣の
軌道を変えて、そのままボスを斬る。
ギャウン!!
ボスは両断こそされなかったが、致命傷を受けすぐに絶命した。
ボスがやられたため、生き残ったブラッドウルフは
あわてて逃げていく。
「追ってまで殺す必要はないか・・・」
サーチで潜んでいるブラッドウルフがいないことを確かめ、
ブラッドウルフの死体を収納バッグに入れていく。
貴族一行はと見ると、護衛が馬車の周りを囲んでいた。
あちらに行ったブラッドウルフはいないようだ。
「面倒だけど、挨拶はしておかないとな・・・」
馬車が停まっている街道に向かってリョウは歩き出した。
「す、すごい!!!」
リョウの戦いぶりをジュリアは見ていた。
ブラッドウルフの群れに1人で突っ込むなど自殺行為にしか
思えない。
しかし、彼はとんでもない大剣を取り出し、その1振りごとに
数匹のブラッドウルフを屠っていった。
朝日に煌めく白銀の大剣が一振りされるたびに舞う血飛沫。
普通なら恐ろしいと感じるはずだが、遠くに居ながら近くに
見える彼女には、まるで伝説の英雄の戦いの一節のように見えていた。
そして、ほんの数分でブラッドウルフは全滅した。
「ジュリア!状況はどうなっているの?」
馬車の窓ごしにオリビアが尋ねる。
「は、はい!3匹ほど逃げた以外、全て倒されました」
「「「「 え???!!!! 」」」」
それを聞いた全員が驚愕する。
「20匹のブラッドウルフを1人で全滅?!!!」
「嘘だろ?!いったいどうやって・・・」
「Aクラス・・・いや、もしかするとSクラスのハンターか?!」
護衛たちがざわめく。
「とにかく!」
馬車の扉が開き、
「粗末に扱ってはいけないお方のようね」
ジュリアに手をとられて、オリビアが降りてくる。
「では、勇者様を丁重にお迎えしましょうか」
護衛たちが、オリビアの前を開け、左右に並ぶ。
そして、歩いてくるリョウを出迎えるのであった。
もちろん、勇者様というのはオリビアの冗談です。




