71 バルダギルド
翌朝、リョウは伯爵館の玄関で出立の挨拶をしていた。
カミーユが、もっといてくれとしがみついてくるのを
宥めながらの挨拶だ。
その様子を少し離れて、エドワードが見ている。
斜め後ろには、エレールもいる。
エレールは、どことなくスッキリした顔をしていて
肌もツヤツヤであった。
「なんでカミーユはあんなやつに・・・」
エドワードが忌々しげに言う。
「昨夜、あれだけ楽しい思いをしたんだから懐くのも当然。
あと、あの男から漏れ出す魔力を感じているせいもあるかも」
エレールが説明する。
「魔力を?!」
「あの男の魔力、聖属性。漏れ出す魔力に癒しの効果がある。
昨夜、確かめた」
昨夜、リョウと一緒に寝て確かめたかったというのはこれであった。
隠形を見破られなければ、リョウが寝た後にこっそりベッドに
忍び込む予定だったのだ。
現在の様子を見れば、実際に効果があったようである。
「聖属性?!お前、『見たことのないほどの密度の魔力』だと
言っていたな?!」
「そう。教会の司教や司祭なんか、比べ物にならない。
会ったことないが、聖女様ならあんな感じかもしれない」
「なるほど、超一流の武術、異国の高い知識、強力な聖魔法、
母上が気を使うはずだ・・・」
「奥方様は正しい。敵対なんて論外。エドワード様も
仲良くしたほうがいい」
「そう・・・だな・・・」
エドワードは、さっきまでとは、まるで違う落ち着いた目で
リョウを見ていた。
「リョウ、これは謝礼だ。路銀の足しにでもしてくれ」
メイフィールド伯が皮袋をリョウに渡す。
「ありがとうございます、伯爵様」
「ああ、アンジェリカと同じようにクロードと呼んでくれてかまわんよ。
帰りもぜひここに立ち寄って、王都での話を聞かせてくれ。
そのときは、ぜひ両親や長男にも会ってくれたまえ」
メイフィールド伯爵の両親、前伯爵夫妻は、領内の港町サタルナで
隠居生活をしながら、サタルナ町長に就任した長男の指導を
しているとのことだ。
「あと、うちの長女も王都の学園にいてな、ガリア家の
ウォルターと同じ歳なんだが、手紙を頼む」
同じ歳の従兄妹で同じ学園、しかも隣の領の
上級貴族の家柄。
思わず、『フラグ立ちすぎだろ!』と言ってしまいそうに
なるリョウである。相変わらずのゲーム脳だ。
「お預かりします」
手紙を受け取り、収納バッグに入れる。
「では、皆様、失礼いたします」
リョウは別れを告げ、メイフィールド屋敷を出た。
リョウは領都バルダを南北にはしる大通りを歩いていた。
馬車や馬を手配すると言われたが、身体強化して走ったほうが
速いので断ったのだ。
もちろん、街中を時速60kmで突っ走ったりなどしない。
早歩き程度の速さで、北門に向かっていたところ、
門まで2~300mのところで、冒険者ギルドを見つけた。
少し考え、リョウは覗いてみることにした。
王都方面の護衛依頼があれば、受けてもいいかと思ったのだ。
ギルドに入り受付を見る。受付嬢が2人いたが、迷わず
胸の大きい方に行く。ぽっちゃりしていて、某ロボットの使う
盾の形の髪留めが似合いそうな娘である。
「おはようございます、今から出発する王都方面への護衛依頼は
ありませんか?」
「すみません、今日の分は全て決まってしまいました」
受付嬢が対応する。
「いえ、いいんです。ついでがあればと思っただけですので」
と、リョウが言ったところ、
「へ!こんな時間に来て、護衛依頼はないか?ときた。
護衛依頼を受けるなら、最低でも早朝に来るのがお約束と
いうことも知らないのか?!とんだ、初心者だぜ!」
近くにいた中年ハンターが煽ってきた。
(おお!お約束キターーーー!!そういえば、ガリアでの
登録のときは、男爵のおぼっちゃんのせいで、こういうの
なかったんだった。さて、どうなるのかな?!)
リョウ、ワクワクであった。




