68 カミーユ
メイフィールド伯爵夫妻が玄関ホールから自室へ向かう
廊下に出たところ・・・
「お母様!!」
7~8歳ぐらいの女の子がアンジェリカに抱きついてきた。
アンジェリカはしゃがんで女の子を抱きしめ頬にキスをする。
「私のかわいいカミーユ。なんでお出迎えして
くれなかったの?」
女の子の頭を撫でながら、アンジェリカが聞く。
「だって・・・」
「すまない、私のせいなんだ」
メイフィールド伯爵が代わりに答える。
「手紙に書いてあったリョウがオーガやリッチーを
倒した話をしたときのカミーユの反応があまりにかわいくてね、
リョウはどんな人かと聞かれて、トロルやサイクロプス
みたいかもしれないと言ってしまったんだ」
トロルやサイクロプスみたいなのは、すでに人じゃない
と思われるが。
「まあ、それで怖がって、出迎えにいなかったのね」
アンジェリカはあきれたように言う。
「まったく、あなたったら・・・、ま、いいわ・・・」
アンジェリカはカミーユを抱き上げる。
「誤解を解いてくるわね」
そう言って、夫と別れる。
「お母様、どこに行くの?」
カミーユの問いに答えずに、アンジェリカは歌を歌い始めた。
「雀の子~・・・ チュンチュン・・・♪」
うろ覚えだが、リョウが歌っていたものを真似してみた。
「お母様、何?その歌!」
カミーユが興味津々で聞いてくる。
「もっと聞きたい?」
「うん!!」
「今から会うお兄さんがいっぱい歌ってくれるわよ」
「ほんと?!!!」
カミーユ、わくわくである。
そうしているうちに、メイドがドアの横に立っている部屋に着く。
アンジェリカ目配せをすると、メイドがドアをノックして言う。
「アンジェリカ様です」
「どうぞ」
リョウの返事を聞いて、メイドがドアを開ける。
「リョウ、うちの末娘のカミーユよ」
アンジェリカが抱いていたカミーユを下ろす。
「カミーユです」
スカートをつまみ少し持ち上げるカーテシーと
言われる挨拶を決めるカミーユ。
そのあまりの愛らしさに一瞬固まるリョウ。
マリエールも十分に可愛いし大人になれば美人になることは
ほぼ間違いなしであるが、少しツリ目で、ジャンルで言えば
悪役令嬢タイプである。
しかし、カミーユは少しタレ目で大きな瞳の純真無垢な
ヒロインタイプである。
(おっと、いけない)
あわててリョウは片膝をつき目線を合わせ、胸に手をあてて挨拶する。
「リョウ・F・カーラにございます」
「お母様、この方が歌ってくださるのですか?」
振り向きながらカミーユが言う。
「そうよ」
とアンジェリカ。
「そういうわけで、マリエールたちに歌ってあげた
歌を歌ってちょうだい」
何が『そういうわけ』なのかわからないリョウだが、
言われたとおり童謡を歌い始める。
「まあ、優しい声だわ」
カミーユ、リョウの歌声を気に入ったようだ。
喜ぶカミーユにのってきたリョウは、身振り手振りを
交えて、動物のマネをしながら歌う。
つられて、カミーユもそのマネをする。
5~6曲歌ったころには、リョウはすっかりカミーユに
気に入られていた。
「そろそろ夕食に行かないといけないわね。
リョウ、カミーユを食堂に連れていってちょうだい。
私は着替えてくるわ」
アンジェリカはそう言って、メイドに案内するように指示し
部屋を出て行った。
「カミーユ様、行きましょうか」
リョウが、左手を差し出す。
カミーユは、一瞬戸惑ったが、右手でリョウの左手を握る。
メイドに案内されながら・・・
「・・・衣まとわせ~♪ 揚げればトンカツだよ~♪・・・」
トンカツ行進曲を歌うリョウ。
「面白い歌!何の歌ですの?」
カミーユが聞いてくる。
「私の国でとても人気のあるトンカツという料理の作り方の
歌ですよ。ガリアでアンジェリカ様にも食べていただきました」
「え~~~、お母様、ずるい!」
ふくれるカミーユ。
「大丈夫ですよ。作り方のレシピを渡しましたので
そのうち、料理人が作ってくれます」
「リョウは作ってくれないの?!」
「私は、王都の冒険者ギルドから呼び出されてるので、
明日の朝、ここを発たないといけません」
「だめ。もっと居て!」
「用事が終わったら戻ってきますので、そのときは
ゆっくりお世話になりますから」
「え~~」
などと話しているうちに、食堂に着いた。
トンカツ行進曲
もちろん、そんなものはありませんw




