56 果汁割り
「リョウ!ずる~~~い!!」
「そうですわ!ずるいですわ!」
夕食の席で、いきなりフェルナンデスとマリエールに
責められるリョウ。
「いきなり何のことですか?」
リョウには身に覚えがない。
「ポテトチップスですわ!!」
「あ!」
身に覚えがあった。
「あんなにおいしいものを、アメリアにだけ渡すなんて
ずるいですわ」
アメリアはメイド部屋に戻る途中、この小悪魔2匹に
でくわし、ポテトチップスを半分、強奪されたのである。
リョウがアメリアのほうを見る。
彼女は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「なぜ、おいしいとわかるのでしょうか?」
「アメリアから、半分もらったからだよ」
リョウの問いにフェルナンデスが答える。
「フェルナンデス様、マリエール様、使用人とはいえ
そういうことはあまりよくないですよ」
なるべく穏やかに諭すように言うリョウ。
「シュタイナー様」
そして、シュタイナーの判断をあおぐ。
「うむ。2人とも、もう12歳と10歳になるのだから
いつまでも子供のわがままを言うものではないぞ。
上に立つ者として、下の者の物を理由なく奪ってはならん」
シュタイナーもなるべく優しく言う。
子供2人はしばらく黙っていたが
「ごめんなさいですわ」
「ごめんなさい」
素直に謝った。
「はい。私も気配りが足りませんでした。
お詫びに明日のお茶の時間のお菓子を作りましょう」
リョウがそう申し出る。
「ホント!!」
「嬉しいですわ!!」
小悪魔、大喜びである。
「あ、シュタイナー様、蒸留酒はいかがでしたか?」
リョウが尋ねる。
「ああ、アルフレッドから受け取ったよ。
なかなか期待できそうだな」
2種の蒸留酒をそれぞれ500mlずつ届けてもらったのだ。
シュタイナー、ご機嫌である。
「とりあえず、果汁で割ったものを用意いたしましたので
皆様もご賞味ください」
メイドたちが、大人たちの前に、グラスを置いていく。
子供2人には、果汁入りジュースだ。
「どうぞ、お召し上がりください」
リョウの言葉に、皆一斉にグラスに口をつける。
「あら、飲みやすいわね」
「お酒っぽくないわ」
「氷が入ってるのがいいわ」
「ワインが苦手な者でも飲めそうだな」
などの感想である。
氷は、水属性の魔法が使える使用人に作ってもらった。
火・水・風・土の4属性のうち、氷が作れる水属性は
食物の保存や暑いときの冷房などで一番重宝されるそうだ。
火は主に戦闘に、土は土木作業でよく使われるが
風は使い道が少ないので、人気がイマイチらしい。
リョウとしては、コミックなどで風属性の切り裂く魔法、
たとえば『エアカッター』みたいなものを見ていたので
不思議だが、まずそういうものを思いつかないらしい。
『何で風で切れるんだ?』ということだ。
それでも、魔法を使える者そのものが少ないので
それなりに需要はあるのだが。
「そのまま飲むには、熟成させないと風味やまろやかさが
足りないので、基本的にそのように割って飲むほうがいいと思います。
氷を浮かべることが多いですが、冬はお湯で割ってもいいですね」
リョウが説明する。
「熟成はどれぐらいかかるのかね」
「半年から1年ぐらいでいいんじゃないかと。
いつかは、3年以上のものを作りたいですが」
シュタイナーの問いにリョウが答える。
「そうだな、今から始めれば、フェルナンデスが
成人するときには5年ものが出来ているわけか」
この世界、成人は15歳である。
「ワイン倉に置かせてもらおうかと思っていますが、
本格的に製造するなら、専用の熟成倉が必要ですね」
「うむ、蒸留所を作るときに一緒に作るとしよう」
その後、サロンでも蒸留酒についての予定を話し合って
その日は終った。




