54 麦芽糖
朝の鍛錬と朝食のあと、リョウとレイナは裏庭の
作業小屋に行く。
アメリアが待っていた。
(いきなりメイド長かよ!)
どこかの芸人のようなツッコミを思うリョウ。
まずは、作業小屋のチェックである。
小屋は4m×5mほどの長方形で、中央に頑丈な
作業台があり、昨日届いたエールの樽が2つ乗っている。
西の壁の南側には棚、南の壁の中央にはドア、
ドアの両側には小さなガラス窓、東の壁には流し台と窓がある。
北の壁の西側にかまどが3つ、東側にもう1つのドアがあり、
かまどの上部の壁は板を上に押し上げる形で外に開くように
なっている。
まず、ジャガイモを流し台に出す。
「アメリアさん、レイナさん、ジャガイモを洗って
芽や痛んだ部分を取り除いて、半分に切ってください」
「はい」
「かしこまりました」
2人は返事をして作業に入る。
「あ、アメリアさん、ジャガイモ5個ぐらいは、
2~3mmぐらいの薄切りにして、水にさらして
ザルに上げて、乾かしてください」
「・・・かしこまりました」
アメリアは、一瞬意味がわからないという顔をしたが
素直に従う。
リョウは、作業台のエールを床に置き、石臼をだす。
石臼は球の1/3ほどを切り取って、切り口を丸く
えぐったような形をしていた。そのままでは不安定なので
木を井桁に組んだ台の上に乗せるようになっている。
この大きさでは、全部石だと重すぎるので、軽量化のためだろう。
石のすり棒も上半分以上が木である。
2人が処理してくれたジャガイモを搗いて
小さくなったら擂る。
そのときリョウは気がついた。
『たぶん日本では擂り鉢が使われるようになったので、
この形の石臼は廃れて、搗き臼が残ったんだ。
餅つきの臼は、搗くだけなら、石である必要が
ないので木になったのかな?!』
などと考えながら作業をしていくが、空気が重い。
レイナもアメリアも真面目なので黙々と作業を
こなしているためである。
静かさに耐えかねて、つい歌を口ずさんでしまうリョウ。
ジャガイモを細かくする作業にのせて、だんだん声が大きくなる。
10kgのジャガイモを全部すり潰すまでに、
10曲以上歌ってしまった。
レイナとアメリアものってくれて、『この前歌われた恋の歌を』
などとリクエストしていた。
それにしても、ちょっとおかしいと思うリョウ。
歌の上手さは、身体強化がかかわっているのかもしれないが
歌詞やメロディーをここまで覚えているものなのか?
ライゼン様、記憶力まで強化してくれたのだろうか?!
まあ、考えていてもわかるわけがないので、作業を続ける。
すり潰したジャガイモを5kgずつ鍋に入れ、水を加えて
かまどに乗せ加熱する。
焦げ付かないようにレイナとアメリアにかき混ぜさせる間に
リョウはモルト:麦芽をすり潰す。
まもなく鍋の中身はドロドロになり粘りがでてくる。
ジャガイモの皮などの不純物が混ざっているが、要するに
デンプンノリである。
火から下ろして、冷ます。
麦芽に含まれる酵素は65℃以上で壊れてしまうので
50~60℃ぐらいになるまで待って、すり潰した麦芽を混ぜる。
温度が高いほうが反応速度が速くなるので、保温のために
布でくるんで、棚に置き、デンプンが分解されて
麦芽糖になるのを待つ。
「一休みして、お茶にしましょうか。私はお菓子を
作りますので、アメリアさん、お茶を淹れてください」
リョウはそう言いながら、かまどに油の入った鍋を乗せる。
そして、さっきアメリアが薄切りにしたジャガイモを
油で揚げて、塩をふり、ポテチの完成である。
「どうぞ、食べてください。ポテトチップスといいます。
昨日のフライドポテトの親戚みたいなものですね」
そう言いながら、大き目の皿に乗せたポテチを
作業台の上に置く。
2人はポテチに手をのばし、つまみ、口に運ぶ。
パリッ・・・パリパリ・・・パリパリパリパリ・・・
「これも、おいしいです」
レイナが言う。
「フライドポテトのホクホク感もいいですが、
これのパリパリとした感覚もいいですね」
アメリアもおいしかったようだ。
そして、休憩も終り、次は蒸留酒である。




