514 ナミカ2
「改めて紹介するよ。この人はナミカさん。教会関係の人で、聖女様との
連絡なんかもしてくれてます」
リョウは、イザベッラとヴァレンティーナにナミカを紹介する。
「ナミカッス。今回のリョウさんと聖女様との婚約もあたしが暗躍した
おかげッスよ」
「いや!『暗躍』するなよ!」
とりあえず、ツッコんでおくリョウ。
「まあ、それはいいとして・・・、彼女、相当強いだろ?!」
イザベッラ、ナミカを本気で振りほどこうとしたのに、出来なかったことに
戦士としてのプライドが少し傷ついていた。
「うん、私より強いよ」
「「えっ??!!」」
リョウの言ったことに驚くイザベッラとヴァレンティーナ。
正直、リョウより強いなんて信じられなかった。
「まあ、いたずら好きが欠点だけど、大事な味方だから信頼してあげてね」
「・・・ああ・・・」
「・・・わ、わかった・・・」
2人は、ナミカがリョウより強いということを、まだ少し疑いながらも
返事をした。
そしてリョウは、イザベッラのグラスが空になったのを見て、ハイボールの
おかわりを作って彼女の前に置く。
「おう、ありがとよ」
イザベッラ、グラスを傾け一気に飲み干す。
「ぷっはぁ~~っ!本物のウイスキーってのは本当に美味いな!!
こりゃ、量産されたら大儲け間違いなしだな」
「そうなんだけど、それまでの投資と熟成期間がすごくかかるからね。
ここみたいに裕福な領とかじゃないと、儲けが出る前に破産するよ」
「なるほど・・・」
ウイスキーは製造・熟成させて、販売ができるまで何年間も収入がない。
なのでニ〇カが、ウイスキーで収益をあげられるようになるまで
果物ジュース(主にリンゴ)を製造販売していたことはわりと有名な話だ。
その流れで、今でもアップルワインやアップルブランデーも作っている。
ニ〇カの『カ』は果汁の『果』なのである。
正直、リョウとしても思い付きで言ったウイスキー製造に、辺境伯が
ここまで大掛かりでのってきてくれるとは想定外であった。
辺境伯家は充分に裕福であるし、場合によっては辺境伯の姉である
アンジェリカ様の嫁ぎ先であるメイフィールド伯爵家からの協力を
得ることもできるだろう。
そして、ここガリア領は農業が盛んなので、原料も安価で大量に調達できる。
さらにこの国でも1、2を争う腕利きのアイオロス親方が弟子を
引き連れて来てくれて、協力してくれている。
これだけの好条件が揃えば、数年後には高品質のウイスキーを
作り出せるだろう。
「ところでリョウ・・・」
「んっ?!な~に?!」
ヴァレンティーナが気まずそうに言う。
「そこに並んでるのも、瓶の形は違うがウイスキーなんだろ?!
ニホンにしかないはずなのに、何でこんなにあるんだ??」
「うっ・・・」
返事に困るリョウ。
1~2本なら、『たまたま収納バッグに入っていた』ということで
ごまかせそうだが、数が多すぎる。
かと言って、素直に『ナミカが持って来た』と言ったら、新たに
『どこから?どうやって?』という疑問がでるに違いない。
というわけで、リョウが困っていると、
「ふっふっふ・・・、それって・・・」
ナミカが不気味な笑い声をだして、ヴァレンティーナに迫ってきた。
「ほ・ん・と・う・に、知りたいッスかぁ~・・・?!」
「ひっ!」
思わず仰け反ったヴァレンティーナ、バランスを崩し、椅子からおちそうになる。
「おっと!」
それをリョウが右手で受け止め、支えた。
「ナミカさんっ!めっ!!」
ごまかしてくれたことに心の中では感謝しながら、一応ナミカをたしなめる
リョウ。
そして、
「2人とも、これからもこの本物のウイスキーを飲みたいでしょ?!」
真面目な顔でイザベッラとヴァレンティーナに言う。
コクコクとうなずく2人。
「なら、余計なことは聞かない、そして本物のウイスキーのことは
ジュリア以外には内緒にする!ということだよ。いいね!」
リョウはウインクしながら言う。
うん、似合ってないからヤメロ。
「ああ、いいぜ」
「わかった・・・」
2人の答ににっこりと笑顔をうかべたリョウは、新しいウイスキーの
瓶の封を切って、またハイボールを作るのであった。




