51 おねだりぼうや(と少女)
お茶の時間であるが、イレーネ、アンジェリカ、
マーガレットの奥様トリオと子供2人の他に
シュタイナーもいた。
「いや、贈答品などにも使うのだから、試食を
しないといかんだろ?!」
と言うが、ただ単に食べたかっただけである。
多目に作って収納バッグに入れておいたので、問題なかったが。
「このお菓子はラスクと呼ばれています。
先にメープルシロップをかけておくと、ラスクに染み込んで
柔らかくなってしまいますので、別にしました。
好みによっては、柔らかいほうがいいという方もいますので
試してみてください」
各人の前にラスクと果物の乗った皿を置き、シロップの
入ったガラス瓶を3本置く。
皆、期待に満ちた目で見ている。
特に子供たちから『早く食べさせろ』オーラがでているが
シュタイナーがいるので、口に出して言えないようだ。
「贈答用には、もっと見栄えのするガラス瓶にして、
口を蝋で封をして、手紙に使うような印を
押すといいかと思います」
「なるほど、我が領の特産だと印象づけるとともに、
偽物をふせぐ効果もあるな」
シロップの瓶を持ってながめながらシュタイナーが言う。
偽物を作った場合の罰は、罰金か短期懲役・労働ぐらいだが、
印の偽造は下手したら死罪である。
そこまでの危険を犯す者は少ないだろう。
「シロップとの比較に砂糖をまぶしたものも
お出ししましたので、食べ比べてみてください」
「うむ、ではいただこうか」
シュタイナーの言葉で、皆が一斉に食べはじめる。
待ち遠しかったようだ。
カリカリとラスクを食べる音が響く。
「まあ!!」
「おいしい!!」
「歯ごたえがいいわね」
「カリカリカリカリ・・・」
好評である。
「砂糖よりずっと上品な甘さね。これはいいわ。
リョウ!帰るときに何本か用意してちょうだい」
アンジェリカが言う。
そういえば、いつ嫁ぎ先に帰るのだろうか?
「すみませんが、この瓶であと10本あまりの分しか
原料がないのですが」
今回採取された樹液は糖度が高いらしく、リョウが
思ったより多くのシロップができたが、それでも
それぐらいしか出来そうにない。
「それなら4本・・・いや3本でいいわ。
いいわよね!シュタイナー?!」
「う、うむ。まあ、いいだろう・・・」
姉に逆らえる弟などいない。
「「おばちゃん!(様!)ずる~~い!(ですわ!)」」
子供たちから同時に抗議の声がでる。
「あなたたちは、これからもリョウの作ったお菓子が
食べられるじゃない。私は、もうすぐ食べられなく
なるんだから、これぐらいいいでしょ」
『いや、俺、お菓子係じゃないから!』と言いたいリョウだが・・・
「え、ホントですの!」
「リョウ!他にもお菓子、作れるの?!」
子供たちのキラキラ目に見つめられては、言えるはずもない。
「ほ、他に仕事がありますので、一週間に1度ぐらいなら・・・」
とりあえず、妥協点を提示するリョウ。
「え~~~?!」
「少ないですわ!」
子供たちが不平を言う。
(う~~ん、わがままなところもかわいいけど、
ちょっと甘やかしすぎたかな・・?!)
そう思いながらリョウは、救いを求めるような目で、
シュタイナーや奥様方を見る。
(おい!!何で、あんたらまで期待のこもった目で
見てるんだよ?!)
シュタイナーと奥様方、自分も食べたいと言わんばかりである。
「わがまま言う子には、もう何も作ってあげませ~~ん!」
リョウは、わざとらしくそう言って、プイっとあさってのほうを見る。
「「「「「え~~~~~~?!」」」」」
(いや、大人たちまで一緒に言うなよ)
「ねえねえ、作ってよう~~」
フェルナンデス、席を立って、リョウの右手をひっぱる。
完全におねだりモードである。
「そうですわ。作るのですわ」
左手は、マリエールである。
「まったく、もう」
小さくつぶやくと、リョウはしゃがんで2人に目線を
合わせる。
「ほんとうに、忙しいので1週間に1度ぐらいしか
無理なのですよ。その代わり、たまにニホンの料理を
作ってさしあげますので、それで我慢してください」
「「ニホンの料理?!!!」」
目を輝かせる2人・・・と大人4人であった。
蝋で封といえば、バーボンのメー○ーズ○ーク。
(伏字にしないでもいいのかな?)
私の一番好きなウイスキーです。
ただ、現在のは封が樹脂になってしまっています。
昔の蝋がよかったな~・・・。




