504 犯人は・・・
リョウはマーティアと直接、結婚関係の話をしたことはない。
好意を向けられているのは間違いないし、リョウも普通に彼女の
ことが好きであるが、恋人でさえない。
俗に言う『友達以上恋人未満』というやつだ。
婚約者というのは、昨夜、その場しのぎの言い訳に使っただけで、
後でマーティアに理由を話して許してもらおうと思っていた。
それがなぜ、口実にすぎない、しかも知っているはずのない婚約者と
いうことを追認するような形で当人が来るのか?!
しかも、ずっと離れた王都にいるはずなのに・・・。
そんな考えを頭にめぐらしながら門に来たリョウに、
「リョウ様!!」
リョウを見つけたマーティアが抱きついてきた。
どっぷん・・・
「ぐふっ・・・」
リョウは、そのマーティアの爆乳アタックを正面から受け止める。
「リョウ様!お会いしたかったですわ」
マーティアは嬉しそうにリョウに抱きつきながら、頬をスリスリする。
彼女の爆乳が2人の間でぷにょんぷにょんしていた。
俗に言う『あててんのよ』どころの騒ぎではない。
正直リョウにとって、すごくいい感触であるが今はそれを楽しむ
余裕なんてない。
マーティアの両肩を持って彼女の身体を少し押し戻し、正面から顔を
向き合って
「なぜ、ここにいらっしゃるのですか?」
と真面目に聞く。
「うふふ・・・」
だがマーティアは、いたずらっぽく笑って言う。
「婚約者に会うのに理由がいりまして?!」
「い、いや、なぜその・・・」
リョウは、なぜそのことを知っているのか聞こうとしたが、こんなところで
話すことではないと思い直した。
「と、とりあえず、屋敷に入りましょう」
そして門番に会釈して、マーティアの手をとりエスコートする。
マーティアも門番に向かってぺこりと頭を下げ、リョウの腕を
抱え込んで一緒に辺境伯邸に向かう。
その様子に門番は、微笑ましそうに2人を見送るのであった。
「聖女様、よくいらっしゃいました。辺境伯家一同、歓迎いたします」
2人が屋敷に入ると、シュタイナーたちに出迎えられた。
「第22代聖女を拝命しておりますマーティアにございます。
先触れもなく訪ねてきて申し訳ありません。」
マーティアが挨拶を返したところで、
「すみません、シュタイナー様。マーティア様を皆さんに紹介する前に、
2人だけで話をしたいのですが・・・」
リョウが割って入る。
「ん?!ああ、そうだな・・・。アルフレッド!部屋を用意して差し上げろ」
気遣いの出来る男であるシュタイナーは、愛し合っている者同士が2人きりに
なりたいのは当然だと思い、快く執事のアルフレッドに指示をだす。
「了解しました。マーティア様、リョウ様、こちらへ・・・」
もちろん、執事のアルフレッドも気遣いの出来る男である。
即座に2人を応接室の1つに案内する。
「はい、どうもすみません」
「ありがとうございます」
応接室で向かい合わせに座るリョウとマーティア。
「・・・まったく、もう・・・」
心から呆れたという様子で、ため息をつくリョウ。
「困った人ですね・・・っ、て人じゃないか・・・」
「うふふ、やはりおわかりになりましたのね」
ニコニコ顔のマーティア。
頭の整理がついたリョウ。
今回のことの原因、というか犯人がわかっていた。
「創造神様のしわざですね?!」
「はい、でも怒らないであげてくださいね。私のことを思っての
ことなので・・・」
マーティアが勝手に王都を離れることなんて出来ない。
しかも神殿騎士どころか、グレイシアやコリーヌさえ供にいないのだ。
となれば、リョウがナミカに指摘されたあの裏技しかない。
(463話参照)
創造神たちに会いに神界に行く方法を利用するのである。
教会の祈祷室から神界に行ったとき、帰りは同じ教会に戻るところを
別の教会に行けばいいのだ。
つまり、神界を中継地点とした教会限定のワープである。
リョウは、何か非常事態があったら、創造神に頼んでこの方法を
使わせてもらうつもりであったが、まさか自分より先にマーティアに
使われるとは・・・。
「それで、創造神様から、どうしろと言われたのですか?」
「は、はい・・・」
リョウの問いに頬を赤く染めるマーティア。
「いい機会だから正式に婚約してもらってこい、と・・・」
「やっぱり、そういうことか~・・・」
リョウの予感が当たった。
「でも、私はいずれニホンに帰る予定なんですが、いいんですか?」
「逆に言えば、そのときまでは、ここにいるわけでしょう?!
そのときまででいいので、私を幸せにしてくださいませ!」
「う~~~ん・・・」
考え込むリョウ。
マーティアは席を立って、リョウの隣に移動し、身体を寄せて、
上目遣いで言う。
「ダメですか?!」
(わっ!かわいいな~!)
(神様の許可があるし・・・)
(グレイシアやジュリアも・・・)
(トラブル避けに・・・)
(いっそこの世界にずっと・・・)
(裏技で会えるし・・・)
(おっぱいが当たって・・・)
(彼女の幸せが・・・)
(9七桂)
0コンマ数秒の間に、リョウの頭の中をさまざまな思考が駆け巡った。
そして、
「ダメじゃないです」
リョウは、そう言ってマーティアを抱きしめるのであった。




