503 翌朝・・・
とりあえず、マリエールとの結婚の話をなんとか回避したリョウは、
ウイスキーのハイボールを辺境伯たちにふるまって、その日のサロンは
終わりとなった。
そして翌日の早朝、ガリア市街にある教会で、少し変なことが起こった。
教会のシスターが花壇に水まきをしようと庭に出ていたところ、
ガチャッ
祈祷室から女性が出てきたのだ。
(あれっ?!こんな時間から祈祷室の使用の予定なんてなかったわよね?!)
と思いながら女性を見たシスターだが、
「わっ!デカっ!」
思わず心の声が出てしまった。
「え・・・?!あら!おはようございます。朝早くからご苦労様です」
その女性はシスターのそばまで来て挨拶をした。
「お、おはようございます・・・」
挨拶を返すシスターだが、彼女はその女性に見覚えがなかった。
歳の頃は10代後半だろうか、上品で育ちのよさそうなお嬢さんである。
着ている服も飾り気は少ないが、上質だと一目でわかる。
裕福な商人か、もしかしたら高位の貴族の娘かもしれない。
「すみません、辺境伯様のお屋敷へは、どう行けばいいのでしょうか?」
女性が尋ねる。
その言葉で、シスターは彼女が他所から来たことを察した。
この都市は、何10年にもわたるゴジール共和国とのトラブルに
対処するため、軍事施設が南側に集中しており、軍の最高責任者である
辺境伯と連絡がとりやすいように辺境伯邸はその中にある。
なので、辺境伯邸には都市の中心を南北に走る中央通りを南に行けば
たどり着くことを、住民なら誰でも知っているのだ。
平城京や平安京などの朱雀大路みたいなものである。
シスターは、そのことを説明し何処から来たのかを聞く。
「あらら、そうでしたのね。私は王都から参りました」
「まあ、それは遠いところを」
「いえ、すぐ来れましたので・・・」
「え?!」
「あ、ありがとうございました。では失礼いたします」
女性は、シスターに礼を言うと門を抜けて中央通りの方へ歩いていった。
そして、女性の後ろ姿を見送るシスターは、
「すごかったなぁ・・・」
自分のささやかな胸に手をあてながら、ぽつりと漏らすのであった。
教会を出ておよそ40分後、女性は、辺境伯邸の門にたどり着いた。
3~4kmほど歩いたのに、まるで疲れた様子はない。
そして明るく門番に話しかける。
「おはようございま~す。ここでお世話になっているAクラス冒険者の
リョウ様に取り次いでいただきたいのですが・・・」
こんな朝から良家の娘らしい者が、供もつけずに徒歩で来たことに
疑問を感じながらも門番は丁寧に聞く。
「失礼ですが、どちら様でしょうか?!」
女性はなぜか嬉しそうに、こう答えた。
「はい、リョウ様の婚約者のマーティアと申します」
その頃、リョウたちは朝食中であった。
「リョウ、今日はどうするのかね?」
シュタイナーが聞く。
「はい、今日は蒸留所でアイオロス親方に新型の蒸留器の説明を
する予定です」
「新型?!それは、どういうものかね?」
「高い濃度の蒸留酒を効率的に作るものなんですが、構造が複雑に
なりますので、実用化には少し時間がかかると思います」
「ふむ、わかった、そのへんは君たちに任せよう」
落ち着いて答えるシュタイナーだが、心の中では
(効率的に高い濃度の蒸留酒を作れるだと?!)
と大喜びしていた。
「お食事中、失礼いたします」
そこにメイドがやってきた。
「リョウ様にお客様です」
「え?!誰ですか?」
(こんな時間に客?!アイオロスが連続式蒸留器のことを聞きたくて
我慢できなかったのかな?!)
なんて思ったリョウだが、
「リョウ様の婚約者のマーティア様とおっしゃってますが、
いかがいたしましょうか?」
「ぶっ!」
思わぬ名前がでてきて吹き出してしまった。
(なぜここにマーティア様が?!まして、婚約者って??!!)
わけがわからないリョウ。
話を聞いていた周りの者たちもざわつく。
「まさか、聖女様なのかね?!!」
とシュタイナー。
「聖女様は王都にいるはずなんですが・・・」
そう言いながら、あわてて門の方向をサーチするリョウ。
そこには、よく知っている反応があった。
「ほっ・・・、本物だぁ~~!」
「「「「「 !!!!! 」」」」」
リョウの言葉に驚く周りの者たち。
「食事中すみません!失礼します!」
あわててリョウは食堂から出て、門の方に向かうのであった。




