43 大きな瓶と小さな瓶
「これは!!!!!!」
司祭が取り出したバッグの中身は、テーブルに乗り切らず
床に並べることになった。
それは、容量400mlほどの瓶が42本、
容量5Lほどの大きな瓶が10本であった。
全部で60Lほどの樹液が入っていると思われる。
「これは、研究の資料としては、多すぎるのではないかな?!」
シュタイナーが聞く。
「それだけの量が必要なのだ。専門家でないものには
わからんことだ」
メービスが言い張る。
「小さい瓶の中身を何本かまとめて大きな瓶に
入れてあるのですよね?!」
リョウがメービスに尋ねる。
「ああ、小さい瓶12本分だ」
「つまり、何本かの違う木の樹液が混ざっていると
いうわけですね」
「ん?!何を言いたい?」
メービスがリョウの言うことに違和感を覚える。
「木の健康状態を調べるためなら、違う木の樹液を
混ぜたら、どの木に変化がでたのかわかりませんよね?!」
「う・・・」
リョウの言葉にメービスが口ごもる。
「小さい瓶にしても、研究者ならどの木からとったのか
ラベルを貼るはずなんですが・・・これで区別がつきますか?」
「・・・」
メービス、反論できない。
「どうなのだ、メービス!」
シュタイナーが返答をせかす。
「ま、魔法だ!」
「「「「 え?? 」」」」
メービスの答えに、全員、きょとんである。
「魔法でわかるようになっているのだ!!」
メービス、とんでもないことを言い出した。
弟のエイビスでさえ、唖然としている。
「そんな魔法は聞いたこともないが」
シュタイナーが言う。
「エルフが開発した魔法で、他には伝えられていないのだ」
もちろん、そんなものはない。
「それなら」
リョウが小さい瓶を2つ手に取った。
「レイナさん、ペンを貸してください」
レイナから借りたペンで瓶の底にそれぞれ○と△を描く。
「こちらの底には○、こちらには△が描いてあります」
それぞれの瓶の底をメービスに見せながら言う。
「底を見なくても、区別がつきますか?」
「あ、当たり前だ!!」
メービスは、もう引き返せなくなっている。
「では」
リョウはくるりと後ろを向き、上着のふところに瓶を隠す。
そして、またメービスのほうに向き直り、上着から瓶を
1本だけ取り出しテーブルに置く。
当然、底は見えない。
「この瓶は、○ですか?△ですか?」
メービスに尋ねる。
「・・・」
答えられないメービス。
「どうしました?区別がつくんでしょう?!」
追い詰めるリョウ。
「ま、○・・・いや△だ!」
2分の1の確率だと、やけになって答えるメービス。
「△でいいんですね?」
リョウが念を押す。
そこで、メービスは考えた。
(間違えていたら、すぐにハズレだと言えばいいはずだ。
つまり、△で合っていて、変えさせて間違えさせようと
いう魂胆だな!)
「△だ!間違いない」
今度は自信たっぷりに言うメービス。
「いいでしょう」
リョウは、上着から瓶を取り出し底を見せる。
そこには○が描かれていた。
「どうだ!やはりこちらが△だ!!」
勝ち誇ってテーブルに置かれた瓶を手に取って底を
見るメービス。
「え????!!!!!!」
そこには何も書かれていなかった。
驚きながら、リョウのほうを見るメービス。
リョウは、両手にそれぞれ底に○と△の描かれた瓶を持っていた。
「正解は、『どちらでもない』です」
リョウがとてもいい笑顔で言う。
「イカサマだ!!!」
メービスが叫ぶ。
「イカサマ?!変なことを言いますね。これは当て物ゲームじゃ
ありませんよ。エルフの魔法とやらで、あなたが瓶の見分けが
つくかどうかの検証です」
コトン
リョウは、△の印をつけた瓶をテーブルに置く。
「そして、あなたはこの瓶とその手に持ってる瓶の
見分けがつかなかった。つまりそんな魔法はないと
いうことです。
『△でいいんですね?』と念を押したとき、
『△だ!間違いない』と言いましたよね?!」
「あ!!」
(そのための念押しだったのか!!)
メービスは膝から崩れ落ちる。
「エイビス、兄はこうやって醜態をさらしているが、
何か言うことはあるか?!」
シュタイナーがエイビスに言う。
「申し訳ありません!!!!」
エイビスは土下座していた。




