34 茶摘み
「同じものだと?!」
サロンに移動して、緑茶についての話をはじめたリョウである。
「品種によって、緑茶に向いているものと紅茶に
向いているものがありますが、基本的には同じ木ですね」
「ということは、緑茶にする特別な製法があるのか?!」
エリックが尋ねるが。
「逆です、紅茶にしない製法があるんです」
「紅茶にしない?!」
「お茶の葉は、摘み取られた時は緑色じゃないですか」
「ああ、確かに」
「お茶の葉には、発酵させる物質、私達は『酵素』と
呼んでいますが、それが摘み取られると働き始めて
紅茶へと変化させるんです。だから、紅茶になる前に
その酵素を働かなくさせればいいんです」
「なるほど、その方法は?」
「基本的には炒ったり蒸したりして、熱を加えて酵素を壊します。
蒸したものを台の上で揉んで茶葉をまとめる『手揉み』という
作業をやってるのは見たことはあるんですが、知ってるのは
それぐらいですね」
TVの特集番組で見たことがあるぐらいなので、さすがに
詳しいことはわからない。
「いや十分だ。さっそく、うちの農園で試してみよう」
「農園を持ってるんですか?!」
「エリックさんは、冒険者で稼いだ金を元に、お茶を中心とした
農園を経営していてな。うちの領の名産品でもあるのだよ」
シュタイナーが説明する。
「お茶好きとしては、やっぱり自分でいいものを作って
みたいじゃないか。まあ、使用人にまかせっきりなんだが。
ちょうど今は、春摘み茶の収穫をしてるので、さっそく
試してみるよ」
「ああ、『八十八夜』ですね」
リョウの言葉に全員がわけのわからないという顔をした。
「あ、すみません。意味がわからないですね。
うちの国に、こんな歌があるんです」
「夏も近づく~♪・・・・」
そしてリョウは『茶摘み』を歌い始める。
カラオケで鍛えていたので、それなりに歌には自信があったのだが、
自分でもびっくりするぐらい上手く歌えた。
どうやら、身体が強化されているので肺活量も増えているし、
声帯も丈夫になっているらしい。
もしかしたら、音感もよくなっているかもしれない。
歌い終わると、歌詞の説明をした。
「なるほど、春になりあちこちで植物が育つ風景と
春摘み茶の収穫の様子を表しているんだね。
リョウの国は、技術だけじゃなく、文化芸術も進んでいるのか」
エリックが感心したように言う。
「リョウ、歌も上手いんだ!他に、どんな歌があるの?!」
フェルナンデスが、聞いてくる。
「子供向けでしたら・・・」
そう言って、ヒヨコや子狐、熊などがでてくる童謡を
連続して歌うリョウ。
フェルナンデスも喜んだが、マリエールは
「かわいいですわ!かわいいですわ!」
とさらに大喜びである。
2人に歌を教えて一緒に歌う。
その様子に大人たちはなごみっぱなし。
はっきり言って、可愛いのはこの子たちのほうだ。
「ロマンチックな恋の歌とかはあるのかね?!」
今度はイレーネのリクエストである。
「もちろん、ございますよ」
何人ものアーティストにカバーされた有名な英語の名曲を
情感たっぷりに歌いあげる。
奥様方、うっとりである。
シュタイナーからは勇壮な曲をとリクエストされ、
変身ヒーローものの主題歌を歌ってみたところ
フェルナンデスとともに大ウケであった。
その後もいろんな曲をリクエストされ、
第一回リョウ・F・カーラ・リサイタルは、
大好評のうちに幕を閉じるのだった・・・。
何でこうなった?!!!
『茶摘み』は著作権消滅曲です。




