312 仲間
というわけで、王都冒険者ギルド本部にやってきたリョウとジュリア。
朝の受注ラッシュの時間帯も過ぎ、職員たちも一息ついたところである。
「おう!ポテチの兄ちゃんじゃないか?!!」
受付に行こうとしたところ、途中で声をかけられた。
リョウが声のした方を向くと、見覚えのある男が右手を上げていた。
始めて王都ギルドに来たときに一緒にエールを飲んで騒いだベテラン
冒険者のエドガーである。
「あっ、ども~。おはようございま~す」
エドガーに近づきながら挨拶をするリョウ。
「おう、あれから姿を見せないんで心配してたぜ。
グランツに聞いても『大丈夫だ』としか言わねえしな・・・」
グランツとは、ここ王都ギルドのギルドマスターである。
「あはは~、ご心配おかけしました~」
リョウは、明るく言った後エドガーに近づき、
「お貴族様がらみの依頼だったので言えないんですよ」
彼の耳元で小さな声で言った。
「ああ、まあ、そういうことだろうな・・・」
エドガーも小さな声で返すと、
「ところで今日も何かツマミにいい物は持ってねえのか?」
わざと大きな声で言う。
「あ、こんなのはどうです?!」
そう言ってリョウは、収納バッグから皿を出し、さっき焼いた
スルメを盛る。
スルメの足は見た目が悪いので、胴体の部分だけである。
「何だこりゃ?干し肉か?」
裂いたスルメの胴体を1本つまんで、顔の前に持ってきて
確認するように見るエドガー。
「スルメと言って、貝の仲間を干したものです。私の故郷では
よく食べられているんですが、こっちではあまり見ませんね」
イカと言うとわかるだろうが、スルメという言葉はこの国にはない。
「ほほう・・・貝か・・・」
つまんだスルメを口に運ぶエドガー。
何度も噛んで飲み込んだ後、エールをぐいっと飲む。
「プハ~・・・。ちょっと匂いにクセがあるがなかなか美味いな」
そう言って、またスルメを口に運ぶ。
リョウの言ったとおり、イカやタコは貝の仲間である。
進化の過程で、殻で身体を護ることより自由に泳ぐことを優先したため
殻が退化したのだ。
そのため、タコの仲間にはアオイガイという殻を持つ種類がいるし、
イカの仲間の多くには殻のなごりが身体の中に残っている。
スルメの場合は身体の中心に細くて薄い樹脂みたいなものが
ついていることがあるが、それが殻のなごりである。
コウイカでは、その名前の由来となったサーフボードのような形の
『甲』(フネと呼ばれている)が体内にあり、軽くて水に浮くので、
洗って乾かせば風呂場での遊び道具になる(笑)
ただ、縁の部分が薄いし割れやすいので安全性はイマイチである。
また、カルシウム補給のためカメやインコなどに与えたりする。
「じゃ、私は用がありますので・・・」
リョウは、そう言って受付のほうを指さす。
「おう、用が終わったら一緒に飲もうぜ」
エールのジョッキを上げるエドガー。
「リョウ!何だあれは?あんなもの私は食べさせてもらってないぞ!」
ジュリアが小声で言う。
ちょっと怒ってるようだ。
「あ、ごめめ、さっき厨房で焼いたところだったのよ。でも・・・」
「でも?何だ?!」
(丸ごとのスルメを見せたらジュリアはどういう反応をするのだろう?)
そう思いながら、受付に向かうリョウであった。




