309 ヒルダ
試食を申し出た若いシスターにリョウは見覚えがあった。
「君は・・・?!」
「ヒルデガードといいます。ヒルダと呼んで下さい!」
スルメのカラアゲを、つまみ食いされた娘だ。
おかげで他のシスターもつられて食べてしまったため、
リョウはスルメのカラアゲを食べ損ねてしまった。
ヒルダは、食べるのを躊躇していたグレイシアから
器をひょいっと奪うと、まず匂いを嗅いだ。
「う~~ん、嗅いだことない匂いですが、悪くないですね~」
そう言ってためらいなく汁を飲む。
スルメのカラアゲのときもそうであったが、食べ物については
相当なチャレンジャーのようだ。
彼女の様子を息をこらして見つめるグレイシアとシスターたち。
器から口を離したヒルダは、皆の視線を気にした様子もなく
何かを探すようにあたりを見回した後、調理台の方へ行き
フォークを手に取る。
そして豚汁の具を食べ始める。
なかなかマイペースな娘である。
「もきゅもきゅ・・・ごっくん」
そして食べ終えたヒルダはリョウに器を差し出し言う。
「おかわり!!」
「ね~よ!」
ヒルダから器を奪いながら言うリョウ。
「よかったら、そっちの試食もしますよ」
角煮の鍋を見ながら言うヒルダだが・・・。
「あ、もうやりまひた・・・アフアフ・・・」
鍋の番をしていたシスター、モグモグ状態である。
「ていっ!」
「ふみゅっ!」
ふたたびリョウのジャンピングチョップ。
そして、他のシスターたちに向き直る。
「というわけで問題ないということがわかったと思います。
味は夕食にときに確かめてくださいね。
あと、つまみ食いは本当に夕食なしにしますから」
釘を刺すリョウにコクコクとうなづくシスターたち。
そしてグレイシアは試食しておけばよかったと後悔していたが
後の祭りでワッショイワッショイであった。
「優しい味ですね」
豚汁を飲んだマーティアが言う。
「うむ、あんな見た目じゃからどうなるかと思ったが、なかなか
うまいのう」
ブレンダも満足げである。
「こっちの角煮というのもおいしいですね」
とジュリア。
「ああ、俺にはこれぐらい濃い味付けが合ってるぜ。
リョウ、これも作り置きしてってくれな」
グレイシア、さっそくおねだりである。
「もうじきリョウ様の料理も食べられなくなるんですねぇ・・・」
コリーヌ、ちょっと寂しそうだ。
「作り方は調理係のシスターたちに教えてあるし、レシピも
渡してあるから作ってもらってください」
リョウがなぐさめる。
「あ、そうそう」
リョウ、コリーヌの言ったことで、マーティアに言わなければ
ならないことを思い出した。
「リリエンタール公爵家のアレン様の治療は完了しましたので
報酬をいただきたいのですが」
「では、もう大丈夫なのですね?!」
嬉しそうなマーティア。
「はい、術後観察の結果も問題なかったので、この件に関しては
大丈夫かと」
「わかりました。コリーヌ、食後にリョウ様への報酬を用意して」
マーティアがコリーヌに指示をだす。
旅の用意は収納バッグのおかげで、ほとんどする必要がない。
報酬をもらって、明日にでも王都を発とうと思うリョウであった。




