31 お酒
鍛冶屋を後にしたリョウたちは、少し歩いた後、一軒の食堂に入る。
「えっと、この店かな」
昼食をとるため、ガラントにおすすめの店を教えてもらっていたのだ。
2人は空いているテーブルにつき、ウエイトレスを呼ぶ。
「カヌレ亭ランチ2つと・・・飲み物、お酒は何がありますか?」
食事のついでにお酒の調査である。
「今は、ラガーとエールが両方ありますよ。あとはワイン、
赤・白・ロゼの3種ですね。」
リョウは、ラガーとエールがよくわからなかったので
聞いてみたところ、以下のようなことだった。
ラガーとエールは、ビールの一種らしい。
ラガーは気温が低めの季節・ここでは冬から春・秋から冬にかけて、
エールは気温が高めの季節・ここでは春から夏・夏から秋にかけて
作られているそうだ。
今は春の終わり頃なので、両方あるとのこと。
とりあえず、全部1杯ずつ注文した。
「リョウ様にも知らないことがあるのですね」
レイナが微笑みながら言う。
「それなりに知識は広いつもりですが、浅いので専門的なことは
わからないことだらけですよ」
(だから、この役目に選ばれたらしいんだけど)
「おまちどうさま~~~」
ウエイトレスが注文した酒を置いていく。
「レイナさん、お好きなものをどうぞ」
「では、ワインの赤を」
「じゃ、俺は・・・こっちがエールかな?!」
リョウは、グラスをとって
「乾杯!」
と言う。
「え?今のは?!」
「あ、俺の国のお酒を飲む前の挨拶みたいなものです」
レイナの問いに答える。
「そうなんですか・・・乾杯!」
ちょっと恥ずかしそうにレイナも乾杯を言う。
お互いにグラスを傾ける。
エールは確かにビールっぽい味だが、常温なのでイマイチな
感じがした。ラガーのほうも飲んでみたが、似たようなもので、
ちょっと味が濃いかんじだ。
そのとき、リョウはひらめいた。
「あ!ビールがあるということはモルトがあるっていうことか!」
つい口にでてしまい、レイナが少し驚く。
「リョウ様、どうなさいました?」
「あ、すみません。思い出したことがあったもので」
甘味を作る手段の1つが簡単にいきそうだ。
ご機嫌でエールを飲み干すリョウだった。
食事の後、農作物を見るため、リョウたちは市場に
やってきていた。
つい、調子にのって、残りのお酒も全部飲んでしまい
酔ってしまったリョウは、ご機嫌モードである。
「大丈夫ですか?!」
レイナが心配するが、リョウの足取りはふらつくわけでもなく
逆にスキップでもするようにかろやかに歩いていく。
「おっねえっさんっ、今の時期は、イモ類はどんなのがあるの?」
リョウが声をかけたのは、野菜を並べた店の初老の女性である。
「おや、お兄さん、ご機嫌だね。イモならジャガイモだね。
タロイモの時期はもう終りだし、サトイモやサツマイモは秋だよ」
女性が答える。
「ジャガイモがあるなら大丈夫か。米はあるのかな?」
「米はここじゃ食べる人がほとんどいないから、扱ってる店は
知らないねぇ。ゴジールじゃ食べられてるらしいけど」
「お、ゴジールにあるのか!じゃ、そのうち行かないと
いけないな」
リョウの『ゴジールに行く』という言葉を聞いて
ビクッと猫耳を振るわせるレイナ。
ご機嫌モードのリョウは気づいてない。
「じゃ、果物を試してみたいので、置いてある果物を
全部1つずつくださいな」
「何だい、食べ比べでもするのかい。よっと・・・う・・・」
女性は椅子から立ち上がり果物を取ろうとしたが
うめいて、伸ばした腕をひっこめる。
「お姉さん、腕をどうかしたの?」
リョウが聞くと。
「このところ肩が痛くてねぇ、もう歳だししょうがないさ」
「ちょっと見せて」
リョウは肩に手をあて、サーチする。
「じっとしててね」
しこりと炎症があったのでヒールして治療する。
「どう?」
手を離して聞く。
女性は、腕を上下させたり、肩を回してみる。
「痛くない。何だい、あんた。治癒師だったのかい?!」
「違います」
「じゃ、なんでこんなことが出来るんだい」
「超一流の治癒師だからです」
胸を張って答えるリョウ。
レイナは、『あ、これはダメだ。やっぱり酔ってる』
と思い、速やかに撤収することにした。
「ごめんなさい。酔ってるようなので、また来ます。
ほら、帰りますよ」
レイナはそう言って、リョウの腕をとり、立ち去ろうとする。
「え~~~、大丈夫ですよ~~~」
リョウが言うことを聞かないので、レイナは切り札を切る。
「言うことを聞いてくれたら、私の耳を触らせてあげますよ」
「帰ります」
効果はバツグンだ。
そのまま、レイナにひっぱられ、領主館まで帰るリョウ。
その途中でチンピラにからまれたが、リョウの酔拳が
炸裂しました(笑)。




