300 醤油
リリエンタール公爵家を辞したリョウたちは市場に来ていた。
今朝シスターたちと約束したプリンの容器を買いに来たのだ。
孤児院の子供たちが約30人だそうだから、シスターたちの分や
作り置きを入れれば余裕をもって50個は用意したほうがいいだろう。
リリエンタール公爵家を出るときには神使タイガと闇巫女アレッタの
扮装に戻したが今は裕福そうな平民の格好に着替えている。
「ちわ~~、何か面白い物、入ってますか~?」
市場に着いたリョウたちは、乾物屋に入る。
以前、タコやスルメを買った店である。
この店は他の店が扱わないような変わった物を扱っているので
リョウは市場に来たら、最初にこの店に行くようにしている。
「おう!兄ちゃんかい。今日も奥さんと一緒か、仲が良いな」
店主のおやじが返事をする。
奥さんと言われたブレンダ、少し頬を赤くして抱えているリョウの
腕をさらに強く握る。
「面白い物といえば、昨日、南方の調味料が入ったんだが・・・」
店主、言葉の後半の歯切れが悪くなる。
「どうかしたんですか?!」
「いや、豆から作ったものだというんだが、ちょっと見た目と匂いがな・・・」
そう言った店主は店の奥に行き、細身の壺と甕を持ってきた。
「まずは、こっちだが・・・」
そう言いながら、店主は小皿に細身の壺の中身を少し注ぐ。
それは黒っぽい茶色の液体だった。
「これはっ!!」
それを見た瞬間、リョウが叫ぶ。
店主に断りもなく、小皿に注がれた液体に指をつけ舐めて味を確かめる。
「 !!! 」
下を向き、身体を震わせるリョウ。
「リョウ!どうしたのじゃ?!まずかったのか?!」
ブレンダが心配してリョウの顔を覗き込む・・・が。
「ヒャッホ~イ」
リョウ、上を向き両手の拳を上げ、快哉を叫ぶ。
「わっ!」
ブレンダ、びっくりしてしりもちをつく。
液体は、リョウが思ったとおり醤油であった。
「ということは、そっちのは?!」
店主の方を見るリョウ。
「あ、ああ・・・」
ハイテンションなリョウについていけない店主。
「こりゃ!!リョウ!」
しりもちをついたままブレンダが叫ぶ。
「一人で興奮しとらんで説明せんか!!」
「あ、ごめめ・・・」
そう言いながらブレンダに手を貸し、立ち上がらせるリョウ。
「これは醤油と言う豆を発酵させて作ったもので・・・」
説明を始めるリョウ。
「ニホンでは欠かせない調味料なのよ」
「ほほう」
相槌を打つブレンダの横で、店主も真剣に聞いている。
「肉にも合うけど、魚にはもっと合うので・・・」
リョウ、ぶらさげられている商品の1つを手に取る。
「この魚の干物なんかを焼いて、これをかけて食べるとさらに
おいしくなるよ」
もちろん『大根おろしも忘れずに』である。
「そして、こっちが醤油ならそっちは・・・」
リョウの視線が甕に注がれる。
中身は、お約束のアレであった。




