298 リリエンタール公爵家 その10
「それはどういうことでしょうか?」
公爵夫人が、意味がわからないという感じでリョウに聞く。
「実は先日、あるお方に『エステをしてくれとは言わない』という
約束をしていただきまして、その方にしないのに他の誰かにしたなら
いったいどんなお怒りをかうことになるのか・・・と」
困ったふりをしながら説明するリョウ。
「その者の怒りをなぜ私が恐れると?!
いったい誰です?!そんな約束をするとは!!」
公爵夫人である彼女より上の立場の者なぞ、王族しかいない。
「王母様です」
王族であった。
しかも、ある意味、国王よりまずい相手である。
「は?!」
リョウの言葉を聞いて、目が点になり固まる公爵夫人。
「王母ヴェローナ・シルフィード様です」
もう一度、ゆっくりと言うリョウ。
「なぜ王母様がそんな約束を・・・?!」
「おおっ!そういえば、そんな約束をしておったのう」
ブレンダ、思い出したようだ。
「本当なのですか?」
「うむ、王母様もエステというものを知らないようだったが、
たいしたことではないと思ったようで、約束しとったのう・・・」
「何ですって?!!!!!!!」
思わず大声を出す公爵夫人。
「エステがどういうものか知らなかったとしても約束したわけですし、
自分はダメなのに他の者がしてもらったとわかれば、どうなるで
しょうねぇ・・・?!」
リョウ、『まずいですよねぇ』という雰囲気で言う。
「そ、そんな・・・」
愕然とする公爵夫人。
「・・・いえいえ・・・ければ・・・わなけ・・・だいたい・・・」
そして、考えをまとめるように小声でぶつぶつ言い始めた。
ジュリアがいればすべて聞き取れただろうが、リョウたちには断片的にしか
聞こえなかったので、よくわからない。
「そうですわ!ばれなければいいのですわ!!」
考えがまとまった公爵夫人が叫ぶ。
「いや!ばれるでしょ?!!」
思わずツッコむリョウ。
「マルティナ様ほどのレベルじゃなくても、いきなり若返ったり
美しくなったりしたら、理由を詮索されないわけないですよね?!」
「うっ!」
「そして、引きこもって誰にも会わないならバレないでしょうけど、
それじゃ美しくなった意味がないですよね?!」
「ううっ!!」
「最後には王母様のお耳に入って間違いなく、お怒りを買いますよね?!」
「うううっ!!!」
「というわけで、あきらめたほうがいいかと・・・」
「いやぁ~~~!!!」
公爵夫人、叫びながらアレンに抱きつく。
「アレン~、賢者殿が私にいじわるを言うのですよ~」
子供を盾にとる公爵夫人。
とても卑怯である。
「リョウ、そうなの?」
アレンが小首を傾げながら聞く。
はっきり言って、会話の内容がよくわかっていない。
「誤解だよ~。私は奥様が王母様の怒りを買わないようにしたほうがいいと
言ってるだけだよ~」
一番の理由は自分のためであるが、それは当然言わない。
「でも、まあ仕方ないか・・・」
リョウはそう言いながら立ち上がり公爵夫人に近づく。
「奥様、お顔を触ってもよろしいでしょうか?!」
「は、はい・・・」
リョウの言葉に、反射的に返事を返す公爵夫人。
「んっ・・・んっ・・・」
公爵夫人、顔を撫でまわされ思わず声がでる。
数分後、リョウは公爵夫人から離れる。
「どうぞ鏡をご覧になってください」
リョウが収納バッグから取り出した手鏡を覗く公爵夫人。
「まあっ!!」
思わず喜びの声を上げる。
リョウの持つ手鏡には先ほどまでより4~5歳ほど若く見える
公爵夫人が映っていた。
「マルティナ様はやりすぎでしたので、これぐらいなら大丈夫でしょう。
もちろん、このことは内緒ですよ」
リョウは右手の人差し指を立てて自分の唇にあてながら言う。
結局、女性には甘いリョウであった。




