289 コーヒーその1
「うっひょひょぉ~~~!待っておったぞ~~!」
リョウが部屋に入るとブレンダが声をあげた。
他の4人も大きな反応はしないが表情から待ち望んでいたことがわかる。
「クエッ!」
ブレンダの左肩にとまっているスツーカが鳴く。
魔国への使いから帰ってきていたようだ。
「おや?!スツーカ、お帰り」
リョウの言葉にスツーカは『ただいま』とでも言うように、
もう一度『クエッ』と鳴く。
「そうじゃ!リョウに土産じゃぞ」
そう言ってブレンダはコルク栓でふたをされた壺を取り出す。
「ちょうど在庫があったそうじゃ。よかったのう」
「??」
リョウは壺を受け取りコルク栓をとる。
「これはっ!!」
「うむ、コーヒーじゃ」
腕を組み自慢げに言うブレンダ。
「ありがとう!」
ブレンダの頭を撫でるリョウ。
「うむ、感謝のしるしにプリンアラモンを余分にくれてもいいのじゃぞ」
「プリンアラモードね。えっと・・・」
リョウはマーティアたちの前にプリンアラモードを置いていくと
自分の分のプリンを半分に切り、別の皿に全体の半分を取り分け、
それをブレンダのほうに置く。
「スツーカ、ご苦労様」
「え?!」
「クックエッ!」
『いただきます』という感じの鳴き声をあげたスツーカは、ブレンダの
肩からぴょんとテーブルに飛び降り、プリンアラモードを食べ始めた。
「そっちか~~~~~い!!!」
ブレンダが叫ぶ。
「だって、持ってきてくれたのはスツーカじゃん」
「わしが父上に頼んだおかげじゃぞ!」
「ぷぷふっ」
小さく含み笑いをしたリョウは残った半分のプリンアラモードを
ブレンダの前に置く。
「はい、ありがとね」
そう言ってまたブレンダの頭を撫でるリョウ。
「みんなもどうぞ召し上がってください」
「はい、いただきます」
マーティアが応える。
他の者たちも小さく礼を言って食べ始めた。
「じゃ、私はさっそくコーヒーを淹れてきます」
リョウはそう言って、今日2度目のあ〇ち去りで部屋から出て行った。
厨房に行こうとしたリョウだが、
「あ!アレがないか!!」
必要なものがないことに気が付く。
「紙はちょうどいいやつを探すのが大変そうだし、通好みのこっちだな」
独り言を言いながらリョウは向きを変える。
そして、やって来たのは、
「こんばんは~、こんな時間にすみませ~ん」
被服房であった。
「えっ?!リョウ様?!!」
「隠して!!早くっ!」
あわてて何かを隠すシスターたち。
「え?!来たらまずかったですか?!」
その様子に気まずい思いをするリョウ。
「い、いえ、あのう・・・」
「ちょ、ちょうど、下着を作っていたもので」
「あ、それは失礼しました」
(そりゃ隠すよな~)と納得するリョウ。
「それで何の御用でしょうか?」
「あ、フランネルの生地があれば少し分けていただきたいんですが」
リョウの目的はコーヒーをドリップするときのフィルターであった。
紙はちょうど浸透する度合いがいいものがわからないので
フランネルを使う通称ネルドリップと言われる方法で淹れようと
思ったのである。
「はい、どれぐらい必要ですか?」
「え~っと、コットンフランネルの起毛してないやつで、
染色もしてない無地白を1~2mほどお願いします」
「わかりました」
シャキシャキ
(生地を切る音)
「ありがとうございます、お邪魔しました~」
無事、目的の物を手に入れリョウは被服房から出て行った。
「ふう・・・」
「危なかったわね」
「まさかリョウ様が来るとは思わなかったわ」
「さ、時間がないわよ。もうひとがんばりしましょう」
そう言いながらシスターたちは隠していた物を取り出し、
作業を再開するのであった。




