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287 土属性

「何してやがる!!」

料理長の怒声が響く。


揚げ油を用意しようとした料理人が手を滑らせ、油をぶちまけて

しまったのだ。

しかも竈の近くだったため、引火してしまった。


「わっ!」

「あちっ!!」

近くにいた者があわてて離れる。


「水をかけろ!」

料理人の1人が叫ぶ。


「馬鹿野郎!!水はダメだ!コーディー!!」

「はい!」

料理長が叫ぶと料理人の1人が返事をして、こぼれた油の所に

駆けつける。


「・・・放泥マッドシャワー!!」

コーディーと呼ばれた料理人が詠唱のあとに魔法を開放すると

手から泥のようなものが油に向かって噴きつけられた。


「「「 おおっ!!! 」」」


周りの者が驚いている間に、こぼれた油は土で覆われていき鎮火した。


「よくやった!コーディー」

料理長が褒める。


「リョウ様に言われたとおり練習しておいたかいがありました。

料理人に土属性なんて役にたたないと思っていたのに・・・

ありがとうございます」

リョウに礼を言うコーディー。

こころなしか、少し涙ぐんでいるようだ。


「いえいえ、油を使うときは火事が一番の大敵ですからね」

リョウが、前回、揚げ物をするときの注意を話していた時、

土属性の魔法が使える者がいると聞いて、対応を教えていたのだ。


「料理に土属性の魔法は役にたたないと思われいたのに、

こんな使い方があったのですね」

見学していたカテリーナが感心したように言う。


「火傷をした方はいませんか?」

リョウが言う。


「あ、ちょっとだけ・・・医務室に行ってきます」

料理人の1人が、左手の甲に軽い火傷をしていた。


「あ、待ってください」

リョウは料理人を呼び止めて、左手に触る。

「ヒール」


「あ・・・」

料理人が驚く中、あっさりと火傷は消えていた。


「リョウ様は聖魔法も使えるのですね・・・」

それを見ていた別の料理人が言う。


「基本は剣士なので・・・応急処置みたいなものです」

たいしたことはないと強調したリョウが振り向く、

「うっ」


カテリーナが、『わかってますわよ』という笑顔をうかべていた。

オリビアから話を聞いていたようだ。


「すまん、賢者殿」

料理長が声をかけてきた。

「こんな状態なんで、竈の回復まで待ってくれないか?」


「あ、すみませんが用事がありますし、あとは揚げるだけなので

私がいなくても大丈夫でしょう。付け合わせを作ったら失礼します」

そう言ってリョウはキャベツを手に取る。


「このように細く切ってください」

実際に切って見本を見せるリョウ。

そして皿に盛る。

「これで出来上がりです」


「「「「 は??? 」」」」


「キャベツを細切りにしただけ?!!そんなものが付け合わせと

言えるのか?!!」

料理長の語気が荒くなるが、


「まあ、一度試してください。さみしかったらトマトでも添えて

ください。あ、ドレッシングを置いておきますね」

リョウは研究して作っておいたドレッシングの入った瓶を置く。


「ではでは」

そう言ってリョウはズボンの尻ポケットに左手を入れ、後ろ向きで

右手を上げひらひらと振って退室する。


もちろん、『あ〇ち去りかよ!!』なんてツッコむ者はいない。


そしてジュリアたちのいる面会室に戻るのであった。

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