285 忘れてた
「まだ夕食には時間があるし、オリビア様に王都を離れると
挨拶に行こうか?」
リョウがジュリアに提案する。
オリビアとは、ジュリアが仕えていたノーレッジ子爵家の
1人娘である。
ジュリアから望んだこととはいえ、結果的にジュリアを引き抜いた
形になってしまった。
そして、ジュリアは派手さはないが堅実にリョウをサポートし
助けてくれている。
こんな有能な人材を引き抜いたのだから、リョウとしては
その借りをいつか返さなければならないと思っていた。
もっとも当人のオリビアは跡継ぎ問題の暗殺計画から
助けてもらい、リョウのコネでメイフィールド領軍の協力を
得て、黒幕まで処分できたので貸しがあるとは思っていない。
ジュリアのことにしても、リョウとの縁が切れないように
つなぎとめておくという役目がある。
実際、ジュリアがいなければ、今回のようにリョウが
『オリビア様に挨拶しに行こうか?』などと言うことは
なかっただろう。
「はい、私も王都を出る前にお会いするつもりでしたので、
ちょうどいいです」
「じゃあ、はい」
ジュリアに左手を差し出すリョウ。
少し迷ったジュリアは、差し出された手を左手で握り、
右腕で肘のあたりを抱え込む。
少しだけ驚いたリョウだが、すぐに口元がゆるむ。
そして、のんびり王立シルフィード学園に向かって歩く2人であった。
「それで、なぜカテリーナ様までいらっしゃるのでしょうか?」
とリョウ。
オリビアに面会を頼んだら、なぜかカテリーナ第三王女も一緒に
目の前に座って笑顔を浮かべていた。
「あらあら、私とリョウ様の仲ではありませんか。
それにコロッケやトンカツの作り方を教えてくださるのでしょう?!
コロッケは『闇夜の黒猫亭』でいただきましたが、トンカツと
いうものは、まだいただいておりませんので楽しみにしておりましたのよ」
カテリーナ、相変わらず食べ物目当てである。
「え?!なぜそんな話に・・・??それにトンカツの話を
しましたっけ?」
リョウ、まるっきり覚えがない。
「あら?!学園の料理人に『次に行ったときに作り方を
教える』とおっしゃったと聞きましたが?!」
カテリーナにそう言われて思い出そうとするリョウ。
そして、
「あ~~~!!!!」
思い出した。
闇夜の黒猫亭で聖女たちをもてなすための食材の買い出しに行ったとき、
肉屋でたまたま学園の料理人に出会ってそういう話をしていた。
その後、救済の旅に出かけたりと、いろいろとあったので
それらに紛れてすっかり忘れてしまっていた。
「まさか大賢者様ともあろうお方が約束を違えませんですわよね?!」
嬉しそうに言うカテリーナ。
「うう~~~・・・」
王女様相手に下手に言い訳もできないリョウ。
仕方なくカテリーナと一緒に厨房へ向かうリョウであった。
そんなことあったっけ?と思った方、
108話参照でございます。




