282 ウィッツレーベン公爵家 その5
「そうそう、これをお返ししないといけませんでした」
そう言いながらリョウが出したものは、ユディットから預かった
髪留めだった。
「あ、では私も・・・」
ユディットは執事に真竜の爪を持ってくるように言う。
貴重品なので大事に保管していたようだ。
そしてメイドに言って、今つけている髪留めをはずさせ、代わりに
受け取った髪留めをつける。
「やはりお嬢様は、もぐ、その髪留めが一番似合います、もぐもぐ・・・」
「褒めてくれるのはうれしいけど、食べながらはやめなさい」
ブリギッテ、まだプリンアラモードを食べていた。
「リョウ!おかわり!!」
「ね~~よ!!」
そして、食べ終わるとおかわりを要求してきた。
「ちぇ~~っ、ぺろぺろ・・・」
「器を舐めるな!」
リョウは器をブリギッテからひったくり、収納バッグに入れる。
「ん?!何、その手は??」
ブリギッテがリョウの方に右手を差しだしていた。
「いや、他のお菓子はないのかな・・・と」
「あるけど、お前にやる菓子はないわ!!」
失敗続きの柳〇烈〇を叱る将軍様のようなことを言うリョウ。
「ちぇちぇ~~~っ」
口をとがらせるブリギッテ。
その時、執事が真竜の爪を持ってきてユディットに渡した。
「両親に見せたら驚いていましたわ」
そう言いながら爪をリョウに差し出すユディット。
「はい、確かに受け取りました」
爪を一旦受け取ったリョウだが、
「では、改めてユディット様に献上いたします」
そのまま差し出し、ユディットの前に置く。
「え?!!!どういうことですの?」
ユディットは、とまどった様子でテーブルに置かれた爪とリョウの顔を
交互に見ている。
「プロデューサーとしての仕事、ゆくゆくは商会成立のための
資金の一部にしていただきたいと・・・」
「私の活動を支援してくださるということですか?!」
「はい。本当なら私自身がお手伝いしたいのですが、まもなく
王都を離れる予定ですので」
「王都を離れる・・・」
「その前に出来るだけのことはしておこうと思いまして」
ユディット、リョウが嘘を言っているのではないということはわかる。
しかし、腑に落ちない。
「リョウ様にとって、私と関わることは迷惑だったのではないですか?
なぜそこまでしてくださるのです?」
なので、ストレートに聞く。
「あ、ま、まあ・・・」
思わず、『迷惑かけてるという自覚あったんかい?!』と
ツッコみたくなるリョウであるが、そんなこと出来るはずがない。
それにリョウにとって確かに迷惑であったが、技芸神のカナーリオから
『協力してやってくれ』と頼まれたし、ユディットのやろうとしている
ことは『文化の振興』なのでリョウのもともとの使命である
『文明を少しだけ発達させる』ということとも合致している。
ただ、そのへんの説明をどうすればいいのか?
『技芸神様から頼まれました』なんて言うわけにはいかないし、
『私の使命は文明を発達させることです』なんて、もっと言えない。
どう言おうか悩むリョウであった。




