278 ウィッツレーベン公爵家 その1
「結局、こうなるのか・・・」
リョウはまた教会の調理室にいた。
今日は、午後のお茶の時間にユディットと会う約束があるため
午前中に夕食のデザートのプリンを作っておこうと思ったのである。
しかし、食いしんぼのシスターたちがそれを見逃すはずはなかった。
そこで、リョウは自分がいなくても作れるようにと、作り方を
指導したのだが、砂糖は高価なのでめったに作ることが出来ない。
結局、代用品の水飴の作り方まで教えることになったのである。
「これが、明日にはこうなるんですね~」
リョウの前にいるシスターたちは、今作った水飴のもとを見ながら
見本としてリョウが提供した水飴を嬉しそうに舐めている。
明日は、それを水飴に仕上げる。
甘味が少ないこの国で、彼女たちの楽しみが増えたようだ。
その様子を見て、絶対につまみ食いするシスターが続出すると
思ったリョウ。
きちんと管理してもらうようにマーティアに言っておくことにする。
リョウが旅に出て戻ってきたら、シスターたちがみんな
ぽっちゃりさんになっていた・・・なんてことがなければいいのだが。
その後、約束した時間にウィッツレーベン公爵邸に来たリョウ。
今日のお供はジュリアである。
教会の馬車に乗ったまま門をくぐり屋敷の玄関前で降りる。
「は~、さすが豪邸ですね~」
ジュリアが屋敷を見上げながら言う。
今日のジュリアの格好はパンツスタイルに皮のチョッキ、
そしてショートソードを佩いている。
リョウがユディットと初めて会ったときのブリギッテも
同じような恰好をしていた。
要するによくある女性の護衛スタイルである。
もちろん公爵家に来るのであるから、すべて一目で上質と
わかるものを着ている。
彼女は招待されたわけではないので、リョウの護衛という立場で
同行したのだ。
リョウの方はいつもの貴族服である。
リョウがサーチでさぐったところ、先日行ったリリエンタール
公爵家より敷地は狭いが、屋敷そのものは大きい。
庭木もよく手入れされており、裕福なようだ。
まあ、そうでなければユディットが芸術家や職人たちのパトロンに
なることなぞ出来ないが。
そして、ユディットはと探すと中庭らしい場所に反応があった。
近くにブリギッテの反応もある。
どうやら、今日のお茶会の場所は中庭のようである。
「リョウ様とお供の方、ようこそいらっしゃいました」
中年の執事が数人のメイドたちと供に出迎える。
リョウの着ている貴族服についたガリア辺境伯の略紋に気づき
少し目を見開いたが、それ以上の反応はない。
「ご案内いたします」
そして、何も気づかなかったように2人を案内する。
さすが公爵家の執事である。
本来ならリョウがジュリアの手をとってエスコートするところだが
今日のジュリアは護衛の立場なので、ジュリアはリョウの斜め後ろを
歩く。
執事に付いて行くと、予想通り中庭に出た。
「リョウ様、お待ちしておりましたわ」
ユディットが出迎える。
「お茶の席へのご招待ありがとうございます。
こちらは、私の冒険者としてのパートナーでジュリアです」
「ジュリアです。よろしくお願い致します」
リョウの紹介にジュリアが挨拶する。
キュキィ~~~ン!!
ユディットとブリギッテの女の勘がひらめく音がした。
この2人の関係はただの仕事のパートナーではないと。
「仕事のパートナーにしては仲がよさそうですわね」
ユディットがゆさぶりをかける。
「はい、恋人でもありますので」
あっさり答えるリョウ。
「あら・・・」
『恋人』と紹介され、嬉し恥ずかしで、クネクネするジュリア。
ちょっと気持ち悪いのでヤメロ。
そして、あっさりと答えられたユディットとブリギッテは
『お~、そうかい、そりゃよかったね』
と心の中で思う。
自分から聞いたくせに身勝手である。
まさに『リア充、爆発しろ!』と思う2人であった。




