272 皮作り
リョウは母の真理子の手伝いをして餃子を作ったときのことを
思い出しながら作業をしていた。
「焼き餃子の皮を作るポイントは、小麦粉を水ではなくて、お湯で
こねることよ」
記憶の中の真理子が言う。
なかなかこだわりがあるようだ。
「薄力粉と強力粉の割合は意見が分かれて、
どれがいいかわからないし面倒だから1:1ね」
わりと適当でもあった。
薄力粉や強力粉の違いは、小麦粉に含まれるグルテンという成分の
割合による。
グルテンが多いと粘りが強くなる。
グルテンが8%前後含まれるものが薄力粉、12%前後含まれるものが
強力粉、その中間が中力粉である。
余談だが、もち米と私たちが普通にごはんとして食べる米
(もち米に対して『うるち米』と呼ばれる)の違いもこれに似ている。
デンプンはブドウ糖が数千~数十万繋がった構造をしている。
デンプンには分子数が少なく直線状のアミロースと分子数が多く
枝分かれ構造のアミロペクチンの2つがあり、アミロペクチンは
分子がからんで弾力がでる。
そのアミロペクチンがほぼ100%なのが、もち米である。
(うるち米は約80%)
そのため、もち米を搗いた餅は粘りがあり伸びるのである。
小麦粉の話に戻る。
薄力粉と強力粉を1:1で混ぜるのならば、最初から中力粉を
使えばいいじゃんという話なのだが、中力粉は用途が限られるので
扱ってない店も多いそうだ。
それに、薄力粉と強力粉を自分の用途に応じた比率で混ぜたほうが
汎用性がある。
ちなみに、中力粉はうどんに使われるので『うどん粉』とも
言われるらしい。
ところが、この世界で小麦粉はそういう区別をされていない。
製粉技術が現代日本と違いすぎるので、混ぜ合わせて均一な品質を
作り出すなんて無理である。
調理係のシスターたちに聞いたところ、産地の違いが品質の違いに
現れるため『~産の小麦』という区分を目安にして使い分けているそうだ。
というわけで、たぶん中力粉に近い品質だと思われる産地の
小麦粉を使うことにした。
その小麦粉に少しの塩とお湯を加え菜箸で混ぜ、火傷をしないぐらいの
熱さになったら手でこねる。
こねたらひとまとめにしてボウルに入れ、乾燥しないように濡れ布巾を
かけて休ませておく。
雲吞と小籠包の皮も同じように作るが
お湯ではなく水を加えてこねる。
さて、シスターたちに頼んだ具材の下ごしらえも出来たようだ。
皮のタネを休ませている間に具材作りである。
うちの母は、小麦粉のことをメリケン粉と言ってましたw




