270 器(うつわ)さがし
さてデザートである。
女の子の好きなデザートで最初に思い浮かぶのはケーキだが
スポンジの作り方がわからない。
ならばパンとかで代用するか・・・生クリーム塗って果物を
乗せて・・・って、それ、フルーツサンドイッチじゃん?!!
もう作ったわ!!
あ、でもブレンダには食べさせてないか・・・
でも、マーティアたちには食べさせたから・・・
「何をボーっとしてるのじゃ!!」
「ふみゅ!」
ブレンダ、脳内ボケツッコミをしていたリョウの左右の頬っぺたを
それぞれ両手でひっぱる。
「ブレンダのために作るお菓子はどういうものがいいか
考えてたのよ」
『ブレンダのために』というのがポイントである。
「お~、そうかそうか」
少し機嫌を直すブレンダ。
「どんなものを考えているのじゃ?」
「果物をメインにしたやつなんて、どう?」
リョウは、ファミレスや喫茶店などで定番のアレを考えていた。
「おおっ、それでいいぞっ!」
ブレンダは期待に満ちた顔で答える。
そういうことで、2人で店を回って果物を何種類か買った。
しかし、リョウにとってはこれからが大事であった。
「何じゃ?!この店は?」
来たのは食器を扱う店である。
「食器なら、教会にあるじゃろ?!」
「ダ~メ!もっとオシャレなのじゃないと未完成なのよ」
そう、リョウが作ろうとしているもの、フルーツパフェは
器が大事であった。
想像してほしい。
普通のコップに入れられた細切りの果物を。
それ、野菜スティックじゃん!
パフェはあの容器に盛られてデコレーションされているからこそ
パフェなのである。
そういうことで、よさそうな器をさがすために店の中を見て回るリョウ。
そして、
「お~~~!!!これはっ?!」
ガラスではないのが残念だったが、面白い形をしたものがあった。
それは、大きさの違う陶器製の花びらが重なって縦長の器を
形作っていた。
「おや、お目が高いですな」
店主らしい初老の男が声をかけてきた。
「それは、ウィッツレーベン公爵家のユディット様おかかえの
陶芸家の作でございます」
「ユディット様ですか・・・」
その器の値札には、パキート・パスクアルという
作者の名前が書いてあり、器の底には彼のイニシャルである
PPを図案化したものが描かれていた。
「その透き通るような白をだせるのは、今のところ彼しか・・・」
店主が説明を続けるが、リョウは聞き流す。
そしてリョウは、他に並べてあるパキートの作品から気に入ったものを
選んで、合計6つ買うことにした。
同じような普通の器の3~5倍の値段がしたが芸術品でも
あると思えば妥当なところだろう。
店主は喜んで代金を少しまけてくれた。
値切ればもっと安くなっただろうが、これだけのものを作る
パキートへの敬意として値切る気になれなかった。
技芸神のカナーリオから頼まれたのでユディットには協力する
つもりであったが、今回のことでさらに自主的に協力する気に
なったリョウであった。




