261 フレアバーテンダー
『アレ』とはフレアバーテンダーであった。
救済の旅の初日、ウィスラー伯爵邸で披露したやつである。
あのときは練習不足でイマイチだったと感じたリョウは
こっそり練習していたのである。
ついでにカクテルのほうも研究していたため、手持ちのウイスキーは
ほとんどなくなってしまった。
代わりにカクテルの在庫ができたが。
ガリアに戻ったらウイスキーを補充しなくてはと思うリョウ。
そういえば、ドワーフの鍛冶屋のガラントは師匠のアイオロス親方と
その弟子たちをガリアに連れて行ったそうだが、蒸留所建設は
うまくいっているだろうか?!
それから、試作品の蒸留器を譲った(というより、アンジェリカ夫人が
弟のシュタイナーに無理やり譲らせた)メイフィールド伯爵は
ワインからブランデーを作ってみると言っていた。
うまくいけば領都バルダのメイフィールド邸に立ち寄ったときに
分けてもらえるかもしれない。
作業用のテーブルを用意してもらい開始である。
まずは、酒瓶を使ったジャグリングから入る。
「フンフンフフンフ~~ン♪」
「ホイホイホホ~イッ!」
鼻歌や掛け声をはさみながら軽快にジャグリングを披露するリョウ。
ひょいひょいと合計4本の瓶を順繰りに投げ上げキャッチする。
受け止めそこなったように見せかけたり、身体の後ろ側でキャッチ
したりという演出も入れておく。
「お~~~っ!」
ヴェローナとブレンダの反応もいいようだ。
つかみはオッケーということで、酒瓶を収納バッグに入れて
(実は全部空瓶であった)、グラスや包丁などを取り出す。
さらにオレンジっぽい果実を取り出し、軽くお手玉をしながら
まな板の上に上手くバランスをとって積み重ねていく。
5段重ねのオレンジっぽい果実タワーが完成すると、リョウは
少し下がり、
「フンッ!」
脇差を抜き打ちする。
「フンフンッ・・・」
そのまま数度、脇差を左右に往復させると柔らかい布を取り出し
脇差の刀身を拭いて納刀する。
ふと鋭い視線を感じて、その方向を見ると、護衛が剣を抜く構えを
とってリョウを睨んでいた。
「あ・・・、失礼しました」
ヴェローナと護衛に頭を下げるリョウ。
王族の前で抜刀はまずかった。
実はこれを包丁でやってみたが失敗が多く、脇差に変更したので
あったが、今回はちょっとまずかった。
気を取り直してオレンジっぽいものを手に取るリョウ。
全て水平に真っ二つに切れていた。
「「「 !!! 」」」
皆、驚いていたが、
「さすがじゃな・・・」
ブレンダだけは当たり前という顔をしていた。
果実を絞ってボウルに果汁を入れる。
グラスに氷とウイスキーそして自作しておいたガムシロップを入れ
ステアする。
そのグラスに、茶漉しで種や皮を入れないようにしながら
ボウルから果汁を注ぐ。
軽くステアして出来上がりである。
「どうぞ~。まもなくガリア領で特産品となるウイスキーという
ドワーフ酒の果汁割りです」
ヴェローナとブレンダ、そして自分の席の前にグラスを置く。
ヴェローナのグラスをメイドが毒見した後、少ししてヴェローナは
グラスに口をつける。
「ほほう、ドワーフ酒か。なかなか手に入らないと聞くが・・・
その方が?!」
「はい、私の国では普通に飲まれているものなので」
ヴェローナ、リョウの知識の多さがわかったようだ。
いよいよ、王母との昼食会の始まりである。




