254 ブルーサファイア
「くそうぉ~・・・、何だあの巨乳娘は?!」
ドミニク商会から駆け出たブリザードは、離れた所で乱れた息を
整えていた。
「おっぱいの迫力に押されて思わず逃げちまったよ・・・」
予定では、あることないことを言ってリョウと連れの女性、
つまりブレンダを、からかおうと思っていたのだが、
ブリギッテだと気づかれそうになった上に、あの巨乳である。
「リョウは、ああいうのが好みなのか・・・」
ちらっと自分の薄い胸を見て、ちょっと残念そうにつぶやくブリザード。
「まあ、いいか・・・」
どうせ暇つぶしだったのだ。
「サンドイッチ、食いに行こう」
気分を切り替えて演劇場の方に歩いていくブリザードであった。
「リョウ、結局、今の女は何だったのじゃ?」
ブレンダが聞くが、
「いや、私もよくわからなくて・・・知り合いに似てる人がいるので
そのうち聞いてみましょ」
そう答えるしかないリョウ。
「リョウ様、お待たせしました。こちらへどうぞ」
受付嬢が声をかけてきた。
支配人室に案内されるリョウとブレンダ。
「このたびは、まことにありがとうございました」
支配人室に入るとすぐに支配人のグレアムから礼を言われた。
「いえ、聖女様や教会の方々、そしてこの娘のおかげです」
リョウにそう言われて得意げな顔をするブレンダ。
「ほほう・・・とりあえず、お座り下さい」
グレアムが右手でソファーを示す。
2人がソファーに座ると、グレアムも座りブレンダに挨拶する。
「当商会の支配人、グレアム・ヒクソンと申します」
「ブレンダじゃ。理由あって、家名は勘弁してくれ」
ブレンダも名乗る。
「いえいえ、問題ありません。ところで、ブレンダ様もボムリザードの
狩りに行かれたのですか?」
「彼女の特殊スキルでボムリザードの動きを封じてもらえたので
とても助かりました。おかげで質のいいものを収めることができました」
代わりにリョウが答える。
「なるほど、そういうことですか」
「それで、彼女にご褒美のアクセサリーをあげたいので、見立てて
もらいたいのですが」
「承りました。あとで係の者に伝えますので。
それで、今回の報酬ですが金貨30枚ということでいかがでしょうか?!」
日本円で約300万円。5匹収めたので、1匹約60万円である。
「はい、それでお願いします」
リョウに相場はわからないが、アンジェリカ伯爵夫人の紹介があるので
悪いようにはされないはずである。
受取書にサインして報酬をもらい、貴金属売り場に移動する。
「メインの宝石は何になさいますか?」
係の女店員がブレンダに聞く。
「もちろん、ブルーサファイアじゃ!」
当然のように言うブレンダ。
女店員はちょっとだけ呆気にとられたような顔をしたが
リョウの顔を見て、瞳の色を確認して納得した。
この世界では恋人など大事な人の瞳の色と同じ色のアクセサリーを、
お守りとして身に着けることがよくある。
まして、その相手からプレゼントしてもらうなら、さらに効果が
あるとされている。
元々純粋な日本人で黒髪黒目のリョウとしては、正直この青い眼と
銀髪、そして変化した顔つきには慣れなくて、鏡を見ても自分だという
感覚がイマイチなのだが・・・。
「お客様、瞳の色を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
女店員がリョウに聞く。
なるべくリョウの虹彩の色に近いものを選ぼうとしているようだ。
「はい、お願いします」
そう言ってリョウは少ししゃがんで、女店員が見やすいようにする。
「失礼します」
女店員はそう言って、リョウの頬に手をあてて瞳の色をいろいろな
角度から確かめた後、
「素敵な色ですね・・・。では、少々お待ちください」
そう言って、アクセサリーを選びに行った。
「気に入る物があるといいね」
リョウがブレンダにそう言うと、
「あの女、リョウに近づきすぎなのじゃ!」
彼女は頬をふくらませて不機嫌な様子だった。
リョウには、まだこの世界の男女の距離感はよくわかってない。
今も顔に触られたが、日本の病院で看護婦さんに診てもらったぐらいの
感覚しかなかった。
ブレンダの頭を撫でながら、なだめるリョウであった。




