252 この世界での合理的なこと
リョウとブレンダはリリエンタール公爵家から馬車で出た後、
ドミニク商会に行く途中で降りて、歩いているところである。
ドミニク商会の前で教会の馬車を横付けして目立つのを避けるためと
ブレンダがせっかくなのでデート気分を味わうために腕を組んで
歩きたいと希望したからである。
上質であるが庶民っぽい服に着替えた2人は裕福な商人階級の
カップルに見えるだろう。
ブレンダは、リョウの左腕を右腕で抱えて胸を押し付けている。
リョウとしても、わざとやっているのはわかっているが
気にしていないように装っている。
日本だったら『爆発しろ!』とか『バカップルめ!』とか
言われるに違いない。
「ところで、つけてきてる奴はどうするのかの?」
ブレンダが聞く。
貴族街から中央通りに向かう通りを歩いているので、治安が悪い
はずはないのだが、怪しい男がつけてきていた。
リョウも気づいていたが何か行動を起こさなければ放置するつもり
だった。
しかし・・・
そのときブレンダはリョウの纏う雰囲気がスッと冷たく
なったような気がした。そして・・・
ザザザッ
街路樹の陰から2人の前にガラの悪そうな男たちが3人出てきた。
「よう、お二人さ・・・」
ダッ
ガシガシガシッ
中央の男が何かを言いかけたが、言い終わる前に3人はふっとんだ。
リョウがジャンプして、それぞれの顔面を蹴ったのだ。
空中3段蹴りというやつだ。
逃げる奴でなくても有効である。
トン
ザシュッ
そして着地と同時に後ろからつけてきていた男に向かって
ダッシュする。
「え・・・」
何が起こったのか理解出来ない男のわき腹に、
ドスッ
リョウのミドルの右回し蹴りが決まる。
ノックアウトである。
「ごほっ・・・げほほほっ・・・」
男はうずくまるように倒れた後、苦しさにのたうちまわる。
そして、リョウはブレンダの手をとり、気絶している3人の横を
何事もなかったかのように通って、またドミニク商会のほうに
向かって歩き始めた。
ブレンダは、少しの間、唖然としていたが、またさっきまでと
同じようにリョウの左腕を抱え込み納得したようにぽつりと言う。
「なるほどのう・・・」
リョウはお人よしである。
だが、合理主義者でもある。
この男たちは、人目のないところでリョウたちを襲おうとしたことが
不幸であった。
もし、人目があったなら、今の4人と話をして自分に非はないと
いうことをまわりに示して、穏便にすませただろう。
場合によっては酒代ぐらいならめぐんでやったかもしれない。
だが、他に人がいないのならば、こういう輩と話し合う
意味などない。
だったら、一番合理的なのは・・・?!
相手が危害を加える気なのだから、その前にこっちから先に
倒せばいい、というだけのことである。
この世界でリョウが身に着けた合理的なことの1つであった。
「だって、面倒でしょ?!」
ブレンダのほうを向いてそう言うリョウは、いつもの
お人よしで優しい雰囲気のリョウであった。




