246 リリエンタール公爵家 その2
久しぶりの連日更新ですよ。
治療のために用意された部屋に移動した一行。
「すみません、この部屋は広すぎます。それに・・・」
マーティアが公爵に言う。
「神使様の秘伝の技術なので見られたくないということで、
誰にも同席は許されないと手紙に書いたはずですが・・・」
「うっ・・・」
マーティアに睨まれて、少し怯んだ公爵であるが、
「も、もちろん、我々は退室して同席はいたしません」
何のことかわからないという態度で言う。
「公爵様!」
マーティアは、少し語気を強めて言う。
「『最初からこの部屋に潜んでいたから同席ではない』
などという詭弁をおっしゃるつもりではないでしょうね?!」
「い、いえ、そのようなことは決して・・・」
公爵が言い訳をしようとしていたところ、
ガシッ!
「ぐえっ!」
何かを殴ったような音とカエルがつぶれたような声がした。
全員がその方向を見るとアレッタのそばに男が倒れていた。
部屋の隅に潜んでいた者にアレッタが踵落としをきめたのだ。
「公爵殿、不審者が潜んでおったぞ。
まあ、こんな下手くそな隠形で隠れておるつもりの小物じゃがの」
かっかっかと笑いながら言うアレッタ。
「え・・・あ・・・いや・・・」
公爵、返事が出来ない。
倒れている男は、小物どころか公爵家に仕える者の中でも腕利きの
陰働きの者として評価されていた。
そのとき、スッと音もなくタイガが壁際に移動し、右手を壁にあてる。
ズッ
「ぐほっ!」
ズズッドンッ
小さな鈍い音の後に壁の向こうから人の声が聞こえ、さらに人が
倒れるような音がしたが、壁には傷一つついていない。
タイガが手から出した魔力が壁を通り抜けて、向こう側にいた者に
衝撃を与えたのだ。
イメージとしては、拳法漫画にでてくる浸透勁のようなものが
一番近いだろう。
「あら?!壁の向こうの賊も処理できたようですわね」
マーティアがタイガの代わりに言う。
「あと、そこの戸棚にも潜んでいますわね。
グレイシア!面倒だから戸棚ごと斬ってしまいなさい!」
「ヒッ!」
戸棚の中から声がして、戸棚がガタッと動く。
「了解した!!マー様!」
グレイシアがやる気まんまんで剣を抜く。
「お待ちください!!」
公爵家の執事長がマーティアたちの前に飛び出してきて土下座をする。
「これらの者は、私の一存で潜ませておりました。
公爵様は与り知らぬこと。どうぞ処罰は私の身一つで!!」
「ということは、これらの者は公爵家に仕える者たちなのですね?!」
マーティアが執事長に聞く。
「はい。全て私の指示でございます」
公爵をかばうミエミエの嘘であるが、そこをツッコムのは野暮であろう。
「許します」
「え?!」
あっさり許すと言ったマーティアの顔を見上げる執事長。
「許すと言ったのです。
あ、でも痛い思いをした2人は、かわいそうですね・・・。
あなたのポケットマネーから少し酒代でもあげてください。
他の2人は・・・まあ、そのままでいいでしょう」
そう言ったマーティアは公爵のほうを向く。
「では公爵様、すみませんが、ちゃんと治療に適した部屋の用意を
お願い致します」
微笑んで、軽く頭を下げながら言うマーティアだが、言葉の裏には
『次は許さない』という意味が含まれていた。
慈愛に満ちた優しい少女であったはずだ・・・。
いや、今でもそうなのだろう。
しかし、この威圧感はいったい何なのだ?!。
さらに、連れてきた『神使』と『闇巫女』という2人、
いったい何者なのだ?!
お前程度いつでも殺せるぞと言わんばかりじゃないか。
目の前の聖女と呼ばれる少女に、何とも言えない恐怖を感じる
公爵であった。




