245 リリエンタール公爵家
リョウたちが王都に帰ってきた日の翌日。
「では、よろしくお願いします」
マーティアがリョウとブレンダに言う。
「はい、よろしくお願いします」
「うむ、よろしくお願いされたのじゃ。任せておくがいい」
リョウとブレンダも返事をする。
現在、今日の予定・リリエンタール公爵家長男のアレンの
治療についての打合せが済んだところである。
昨夜、神界でリョウが『手伝いが増えた』と言ったのは
ブレンダのことであった。
リョウとブレンダは、それぞれすでに『神使タイガ』と
『闇巫女アレッタ』にチェンジ済みである。
『闇巫女アレッタ』の衣装は、前回ジュリアから借りたペンダントの
代わりにマーティアの所有するアクセサリーがつけられたり
服も部分的に変えられて、ちょっと豪華な感じにマイナーチェンジ
されている。
席を立ち、部屋の外に出た3人を、ジュリア、グレイシア、コリーヌが
待っていた。
「準備は全て出来ております」
コリーヌが言う。
「はい、では参りましょう」
マーティアの言葉とともに、6人は教会を出て馬車に向かうのであった。
馬車がリリエンタール公爵家の王都邸に着いた。
さすがは公爵家の館、貴族の館が立ち並ぶ一帯でも、ひときわ立派で
目立っていた。
当然、先触れがなされていたので、馬車はすんなりと門を抜け
正面玄関へと横付けされる。
使用人たちが左右に並び頭を下げる中を、マーティアたちは
進んでいき玄関から中に入る。
入ったホールでは、リリエンタール公爵をはじめとする公爵家の
者たちが出迎えていた。
「聖女様!」
先頭のマーティアに興奮した様子の少年が駆け寄る。
リリエンタール公爵家長男アレンである。
マーティアはあわててアレンを抱きとめる。
「アレン様ダメですよ、走ったりしては」
マーティアはしゃがんで目線を合わせながら軽くたしなめる。
この期に及んで発作が起きたら大変である。
「聖女様、本当に私の身体が治るのですか?!」
だが、当人は興奮が止まらない様子だ。
「これ!アレン!落ち着きなさい」
一番豪華な服装をした落ち着いた雰囲気の紳士が近づいてきて言う。
当主のマクシミリアン・リリエンタール公爵である。
「申し訳ありません、聖女様。昨夜いただいた手紙の内容を
聞かせてからずっとこの感じで・・・」
アレンの頭を撫で、苦笑いをしながら言う公爵であるが、
彼もちょっと興奮しているようだ。
「それで、本当にアレンは治るのですか?」
「はい、こちらが手紙に書いた『神使タイガ』様と助手の
『闇巫女アレッタ』様です」
マーティアが2人を紹介する。
無言で前にでたタイガは、握手をするように右手を差し出す。
もちろん、手紙でタイガとアレッタのことは説明してあった。
そして、公爵も右手を差し出し握手すると、
(タイガです。このような仮面をつけて御前に出ることお許しください)
タイガは骨伝導で話した。
「うおっ」
公爵、少しビクッとなった。
「あ、も、申し訳ない。手紙には書いてあったのだが、こんなことは
初めてなので・・・」
恥ずかしそうに言う公爵。
「アレッタじゃ。よろしくなのじゃ」
アレッタが前に出て挨拶する。
「リリエンタールです」
アレッタの礼儀に関することも手紙に書いてあったので、
公爵も気にせず挨拶をする。
というか、息子の治療のためなら多少の無礼は許さざるを得ない。
「お父様!どうしたのですか?」
と言うアレンに、片膝をついて目線を合わせ、右手を差し出すタイガ。
握手をすると、耳ではないどこかから
(アレン様、タイガです。よろしくお願いします)
と聞こえた。
「わっ!」
思わず握手した手を離すアレン。
そして、周りを見て恥ずかしそうにうつむく。
そこにマーティアが彼の手を取って言う。
「このようにタイガ様は不思議なお力をお持ちです。
きっと、アレン様のお身体も治してくださいますよ」
そう言われて、マーティアとタイガの顔を交互に見るアレン。
その期待に満ちた顔に向かって、微笑みながら力強くうなずく
タイガであった。




