243 神界にて
「ただいま戻りました」
マーティアに報告するリョウ。
「リョウ!」
ブレンダが抱きついてきた。
「何をやっておったのじゃ、もう夕食を済ませてしまったぞ」
「ごめめ、ちょっとカフェでお茶を飲んでたら、公爵家のお嬢様に
からまれてしまってね」
ブレンダの頭を撫でながら言うリョウ。
もちろん、『ごめめ』は『ごめんごめん』の略である。
もう、ブレンダに抱きつかれるのに慣れてしまったリョウ。
真竜バルディガルとの約束により保護者のような立場が確定したため、
リョウにとってブレンダは妹ポジションに収まったようだ。
当人のブレンダにしても魔国の王女という立場があるし、それ以上
踏み込もうとすると、グレイシアとジュリアにブロックされるので
とりあえず、この立ち位置でいくようだ。
「本当にお主は、巻き込まれ体質じゃのう。
まあ、そういう運命なのじゃろうな」
明るく言うブレンダ。
しかし、まわりの者からすれば
(あんたもその『巻き込まれ』の1つだろ?!)
とツッコミたいところである。
しかも、真竜まででてくるという、この世界で最高レベルの
『巻き込まれ』である。
「リョウ様、お疲れ様です。帰ってすぐですみませんが、礼拝堂に
お付き合いをお願いします」
マーティアがリョウに声をかける。
「はい、わかりました」
マーティアに付いて行くリョウ。
礼拝堂の入り口で、リョウにくっついたままだったブレンダが
コリーヌとグレイシアに引きはがされる。
「う~~~っ」
頬を膨らませるブレンダ。
その頭をぽんぽんと軽く叩いてリョウはマーティアの後に続いて
礼拝堂に入って行った。
創造神の像の前で跪き両手を合わせる2人。
予想通りの浮遊感の後は、目の前にライゼンたちがいた。
「2人とも、よう来たの。とりあえず、お座り」
ライゼンが2人に席をすすめる。
2人は席についているグラダインやカナーリオにも会釈し座る。
「お茶をどうぞ~。今日のケーキは、レアチーズっすよ~」
ナミカが2人の前に紅茶のカップとケーキを乗せた皿を置く。
「あ、これは・・・」
とリョウ。
「あ、気づいたッスか。そう、リョウさんとこの近くのケーキ屋さんで
買ってきたッスよ」
リョウのお気に入りのケーキであった。
「リョウ、いろいろとご苦労じゃったの」
ライゼンがリョウを労う。
「ありがとうございます。私にとってもいろいろと収穫のある旅でした」
リョウとしても、困っている人たちをそれなりに助けられたので
やってよかったと思っていた。
「俺としては、リョウと真竜の戦いが見たかったがな」
わっはっはと笑いながらグラダインが言う。
冗談だとわかっているが、リョウは苦笑するしかない。
「何、バカなことを言ってるのよ。
ところで、リョウ、ユディットに会ったでしょ」
カナーリオが話題を変える。
「はい、歌を何曲か歌わされました」
ちょっと困った表情のリョウ。
「あの娘、芸術や歌に興味を持っていてね、私が目をかけてるのよ。
ということで悪いけど、なるべく協力してやってちょうだい」
「ということは、彼女も技芸神様の加護を?!」
ユディットの行動に納得がいったリョウ。
「加護をあげてもいいんだけど、わざとあげてないのよ」
「それは、どういうことでしょうか?」
「加護をあげちゃうと、当人が芸術家になってしまうでしょ。
あたしとしては、彼女はあなたの世界で言うプロデューサーみたいな
ものになって、芸術家たちを経済的に支援したり、演出したり
してほしいのよ」
地球でも中世の芸術家や音楽家は、金銭を稼ぐ手段が少ないために
パトロンが必要であった。
公爵令嬢のユディットなら、金銭的にも権力的にも最高のパトロンに
なれるだろう。
そういうことなら、リョウにも異存はない。
「わかりました。出来るだけ協力するようにします」
リョウはそう言いながら、ユディットに対してちょっと冷たかったかな・・・
と思い、次回はこころよく協力しようと決めるのであった。




