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242 ブリザード

新年初更新です。

今年もよろしくお願いします。

「お嬢様」

どこにいたのか、男が現れユディットに声をかける。

中年のがっしりした体形の武骨そうな男である。


真竜の爪(わけのわからないもの)をリョウから預かって呆けていた2人は

その声に我に返る。


「バルザール、これが何かわかりますか?」

現れた男に真竜の爪を見せるユディット。


「ふむ・・・竜の爪に似ていますが、こんなに大きい物は見たことが

ありません。私が見たことがある火竜や地竜の爪は、大きいものでも

これの半分ほどでした」

バルザールと呼ばれた男が答える。


「ということは、本当に真竜の爪・・・」

とブリギッテ。


「先ほど、リョウ(あの男)は『バルディガルという真竜から貰ったと

言っておりました。

私の記憶によれば、魔国の守り神としてあがめられている真竜の名が

バルディガルだったはずです」

リョウの言ったことが聞こえていたということは、バルザールも

何かのスキル持ちかもしれない。


「まさかリョウは魔国の回し者?!!」

ブリギッテが言うが、


「だったら、今、私にこれを預ける意味があるのかしら?!」

ユディットが『それはないだろ』という表情で言う。


「そうですな、自分から魔国の間者だとばらすようなことを

するとは思えませんな。

魔国となんらかの繋がりはあるのでしょうが・・・」

バルザールも否定する。


「ここで話していても仕方ないわ。とりあえず、屋敷に帰りましょう」

そう言ってユディットはブリギットの手を借り馬車に乗り込む。


そして3人を乗せた馬車は、ウィッツレーベン公爵王都邸に向かって

走り始めた。




「それにしても、リョウ(あの男)はとんでもない奴ですな」

馬車の中でバルザールが言う。


「うむ、本当にひどい奴だ!お嬢様の前でいきなり『キン〇マ』と言うし、

(ひと)の胸を洗濯板と・・・しまいには、お嬢様をAカップの貧乳なぞと

・・・!」

とブリギッテ。


「い、いや、そういう意味ではないのだが・・・」

ちょっと困った表情のバルザール。


「ブリギッテ!ちょっとだまってなさい!!

あと、最後の部分、リョウ様はおっしゃってませんよ!」

ユディット、ちょっと怖い。


「おほんっ」

場の雰囲気を変えるようにバルザールが咳払いをしたあと話を続ける。

「我々陰から護衛していた者たち、全員見抜かれていたようです」


「え?!そんな様子はありませんでしたが・・・」

驚くユディット。


「我々の動きに合わせて牽制けんせいをしてきましたし、

我々以外の妙な動きをする者には殺気を飛ばしていました。

どうやら、我々護衛と他の者の区別がついていたようです」

そう言うバルザール、ちょっとくやしそうである。


「カテリーナの話では、学園一と言われるガリア家の嫡男殿が

軽くあしらわれていたそうですし、ありえますわね。」

そう言ったユディットは、少し考えて、


「あなたは、どう見ましたか?ブリザード(・・・・・)

だまってろと言ったはずのブリギッテに向かって聞いた。


「え?!」

ピクッと軽く痙攣けいれんしたブリギッテ。


そして、ユディットたちのほうを向いたときには顔つきが変わっていた。

眼が細くなって吊り上がり、口も大きくなり唇が薄くなっているように

見えた。


そして、彼女のまとう雰囲気に至っては完全に別物だった。

真面目なのに一本抜けているような感じだったのが、獲物を狙う

狩人のような雰囲気になっていた。


実は彼女は二重人格であった。

いくつかの条件で人格が入れ替わる。

さっきのように、ユディットに名前を呼ばれることもその1つである。


「ああ確かに、あいつ、とんでもないな」

ブリギッテ・・・いや、ブリザードが言う。

「演奏中にショートソードをはずした代わりに、お嬢様に渡した棒と

同じやつをベルトにはさんで、いつでも投げられるようにしてやがった」


「フライパンを叩くのに使ったやつですか・・・。

確かに何に使うのか、よくわからない棒でしたね」


「ブリギッテの奴があいつに下手にちょっかいを出して、それを

投げてこられるんじゃないかとヒヤヒヤだったぜ。もしかしたら、

あいつの国特有の隠し武器みたいなものかもしれないな」


ただの菜箸さいばしである。

一本をユディットに渡したので、邪魔にならないようにもう一本を

ベルトに差していただけだった。

何かあったら棒手裏剣のような使い方をしたかもしれないが。


「とにかく、一流の武芸者ということは間違いないな」

とブリザード。


「楽器と歌の達人というだけでよかったのに、さらに一流の武芸と

常識はずれの聖魔法、そして賢者と言われるほどの知識ですか・・・。

まったく・・・天は余計なものを与えすぎですね・・・」


残念そうに言うユディットであった。

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