241 約束の証
正月明けのために書き溜めようと思っていたのですが
出来たので更新しちゃいます。
では、よいお年を~v
ユディットとブリギッテの2人をなるべく気にしないようにしながら
馬車の窓ごしに過ぎていく街並みをぼんやりと見ていたリョウ。
(大通りはそれなりに街灯があるけど、裏通りは下手したら真っ暗
だなぁ・・・。文明的に考えたら、やっぱりこんなもんか・・・)
などと考えていたところ、
(裏通り・・・?!)
心にひっかかったことがあった。
ちらっとユディットを見て、
(ご機嫌直しするか・・・)
そう思いながら、収納バッグから『青山』を取り出す。
ユディットとブリギッテもリョウが『青山』を取り出したのに
気が付いた。
『青山』をリョウが手に取ったとなれば、することは1つしかない。
期待してリョウを見る2人だが、ユディットはブリギッテの頬を
掴んだままである。
リョウが視線でそのことを伝えると、あわてて手を放すユディット。
開放されたブリギッテは、左右の頬を両手でそれぞれ擦りながらも
期待する視線をリョウに向けている。
そして、2人の期待どおり演奏を始めるリョウ。
どこか悲し気な雰囲気の前奏だ。
そして歌い始めるリョウ。
「君が、大事なんだよ~♪」
人気グループ「裏通り少年隊」の「そうしたいのさ」である。
ユディットの目を見ながら、優しく歌うリョウ。
ユディットの頬が赤く染まる。
さっき恋の歌のリクエストのときに、ユディットに「私に告白する感じで」
と言われて断ったが、今回は薄い胸のことで傷つけてしまったので、
お詫びにやってみたのだ。
カフェでそんなことをやったら、どんなうわさがたつかわからないが、
今回は、見ているのがブリギッテだけなので、問題になることも
ないだろうという判断である。
「理由を言ってくれ~♪」
サビに入りさらに熱く感情をこめて歌うリョウ。
ユディットとブリギッテ、なぜか抱き合って、顔だけリョウのほうに
向けている。
「僕は、そうしたいのさ~♪」
そして歌い終わり、余韻をもたせるリョウ。
2人は抱き合ったままである。
そのとき、馬車が止まった。
「教会に着きました」
御者が、連絡用の小窓を開けて告げる。
「はい、ありがとうございました」
『青山』を収納バッグに入れ、ドアを開けて馬車を降りるリョウ。
「では、失礼します」
そう言って頭を下げた後、教会の出入り口に向かおうとするリョウだが、
「逃がしません!」
ユディットに腕を掴まれた。
「またか~~~~い?!!!」
思わず叫ぶリョウ。
芸人なら天丼と言われるところである。
ブリギッテもすかさずリョウの後ろに回り込んでいた。
「次に会う約束をしてくださいませ」
リョウの顔を見上げながら言うユディット。
「そ、そう言われても、いろいろと用事がたてこんでいますので、
お約束は出来かねます」
と言うリョウだが、
「日にちや時刻は決めなくていいので、必ず会ってくださるという
約束をしてくださいませ」
ユディットはあきらめない。
「わかりました。いつとは言えませんが必ずお会いします」
そういうことならと了承するリョウ。
「では」
ユディットが頭に手をやるとパチンと音がした。
そして、リョウに向かって差し出した手には、髪留めが乗っていた。
「そ、それは!」
ブリギッテが驚く。
「約束の証にこれをお預けします。公爵家にいらしたときにこれを
見せれば、私に取り次いでもらえます」
ユディットが祖母から譲られた由緒あるものである。
「リョウ様も何か私にお預けください」
そう言われて髪留めを受け取ってしまったリョウだが代わりに
何を渡せばいいのか・・・。
アクセサリー類はないし、狩ったモンスターの素材なんてダメに
決まっているし・・・あ、あれなら絶対珍しくて貴重なはず・・・。
「で、ではこれを・・・」
そう言ってリョウが出したものは、高さ10cm、底面の直径が5cm
ほどの円錐形をしたものであった。
ユディットが受け取ったそれをまじまじと見る2人。
「な、何ですのこれは?宝石の原石・・・ですか・・・?」
とユディット。
「爪のようにも見えますが、こんなに大きな爪をもつ生き物なんて・・・」
ブリギッテも頭を傾げる。
「真竜のバルディガル様とおっしゃる方からいただいた『真竜の爪』です」
そうそれは、バルディガルからもらった爪のうちの1つであった。
「「 は?! 」」
わけのわからないという表情、俗に言う『目が点状態』の2人。
2人の表情を見て、まずかったかなと思ったリョウだが、
もうどうしようもない。
「では、いずれまた。失礼します」
唖然とする2人を背に教会に小走りで向かうリョウであった。




