239 馬車の中で
「ところでリョウ様」
ユディットが話しかけてきた。
「辺境伯家の略紋入りの服は目立ちすぎるので、他の服もご用意なさった
ほうがよいと思います」
確かに今回ユディットに『賢者リョウではないか?!』と判断されたのも
(カテリーナ王女からリョウの人相等を聞いていたせいもあるが)
辺境伯家の略紋がついた服のせいだし、同じ理由で救済の旅の途中でも
レイチェル伯爵夫人に特定された。
「なるほど、確かにそのとおりですね・・・」
タイガの服のように教会の裁縫部に頼んでもいいかもしれないし、
ボムリザードの報酬の件のついでにドミニク商会で作ってもらっても
いいかもしれない。
「というわけで、今から公爵家に行って、おじい様かお父様の
服をいただきましょう」
というユディットの申し出に、
「もっと目立つわ~!!」
思いっきりツッコむリョウ。
「貴様!お嬢様の申し出を無下に断るというのか!!」
と、ブリギッテ。
「いや、だからお前は止めろよ!!主人の間違いを直すのも従者の
役目だろ?!」
「ふん、見くびってもらっては困る。私は頭が悪いので、お嬢様に意見を
するなんて無理なのだ」
薄い胸を張りながら言うブリギッテ。
「いばるな~~~!!」
リョウも、なんとなく気が付いていたがブリギッテはちょっとアホのようだ。
「というか、そんなんじゃいずれ結婚したときとかに大変なんじゃないの?」
「ふん。この頬の傷が目に入らぬか!」
自分の頬を指さしながら言うブリギッテ。
(お前は、旗〇退〇男か?!!)
心の中でツッコむリョウ。
「こんな顔の女を嫁に欲しいなどという男などおらんわ!
私は一生お嬢様にお仕えするのだ」
勢いよく言うが、微妙に悲しそうなブリギッテ。
「それなら、治しちゃいましょうよ?!」
「「 え??!! 」」
無理なことを当たり前のように言うリョウに、固まる2人。
「お顔に触りますよ」
そう言って両手でブリギッテの左右の頬を軽くはさむリョウ。
そのまま力を加えて『ア〇チ〇ンブ〇ケ』とやりたくなったが、
そのバカな衝動を抑えて、そのまま無詠唱でヒールをかける。
ブリギッテの頬とリョウの手のひらの間から淡い光が漏れる。
そして、光がおさまりリョウが手を離すと、ブリギッテの頬の傷跡は
跡形もなくなっていた。
「あ、鏡がいりますね」
そう言って、収納バッグから鏡を出すリョウ。
「え~~~~~!!!!」
治療の様子を口を半開きで固まって見ていたユディットが、我に返り叫ぶ。
そして、ブリギッテの頬を両手でがしっと掴み、撫でたり、引っ張ったりする。
「お、お嬢ふぁま・・・!!」
頬を引っ張られ痛いのだが、ユディットに対して絶対忠誠のブリギッテは
振りほどくなんて出来ない。
「見なさい!」
そして、ユディットはリョウの出した手鏡をひったくるように奪って
ブリギッテに見せる。
手鏡に映る自分の驚いた顔を見ながら、信じられないように頬を触って
確かめるブリギッテ。
「もし、身体のほうにも傷跡があるのなら、私では問題があるでしょうから
聖女様に頼んでください。
あ、今回、顔を治したのも聖女様だということにしておいてくださいね」
何でもないことのように、とてもいい笑顔で言うリョウであった。




