237 コンサート in カフェ その2
小刻みな旋律が繋がった前奏の後に、曲名のままの、ゆっくりとした大河の
流れのような主旋律が始まる。
チェコの作曲家スメタナの交響曲『わが祖国』より、チェコ最大の河の名前を
つけられた第2楽章『モルダウ』である。
チェコ語ではヴルタヴァ川であるが、作曲された当時はドイツ系国家の統治下に
あったため日本ではドイツ語のモルダウのほうが有名である。
それにヴルタヴァって、日本人には発音しづらいよね。
今回は観客が上流階級ばかりなので、クラシックがいいと思ったリョウは
この曲を選んだ。
聞いたことのない美しいメロディーとリョウの超絶技巧のリュート演奏に
驚きながらも、うっとりする観客。
そして、クライマックスに入り、リョウはユディットに合図をだす。
間近で聞き入っていたユディット、合図をだされ、あわててフライパンを叩く。
トライアングルの代わりである。
さらに、連続する合図と盛り上がっていくメロディー。
ユディットもだんだんとノッてきて叩く力が強くなっていき、最高潮に
入ったところで連打する。
そしてまたゆるやかなメロディーになったところで、
「美しき我がモルダウ河よ~♪」
リョウが歌い始めた。
観客はその美声に聞きほれるとともに、この曲が故郷の河とその周辺の
豊かさ・美しさを表したものだと理解する。
そして曲が終わりフィニッシュを決めたリョウに、割れんばかりの拍手を送った。
「リョウ様~!!」
おば様たちが叫ぶ声も聞こえる。
ただし、あくまでも貴族なので控えめであるが。
「では、これで・・・」
観客に何度か礼をした後、ユディットに挨拶して去ろうとするリョウだが、
「逃がしません!!」
ユディットに、がしっと腕をとられる。
「ブリギッテ!リョウ様を逃がさないように!」
「はい!お嬢様!」
ブリギッテがリョウの移動の邪魔をするために立ちふさがる。
「え~~~~!」
ユディットを振りほどくのは簡単だが、そんなことが出来るわけがない。
「演奏したじゃないですか~~?!」
「一曲では足りません!!あと3曲・・・いえ、5曲お願いします!」
「増やすな~~!!」
ということで、あと3曲演奏することでなんとか許してもらったリョウであった。




