231 アピール
「お~い、大丈夫か~?」
倒れたイザベッラにグレイシアが声をかける。
「えっ・・・ああ・・・わっ!!」
イザベッラ、最初は反応が鈍かったが、急にガバッと上半身を起こした。
そして、しゃがんでいるグレイシアの方を向いて言う。
「えっと・・・何があったんだっけ?」
「あいつにデコピンでふっとばされたんだよ。どうやら、意識がとんでた
みたいだな・・・」
グレイシアの指さした方では、ブレンダとジュリアがリョウに抱きついて
奪い合いをしていた。
「あんな小娘に・・・」
イザベッラ、ブレンダをボ~っと見ている。
「あのデカ乳娘は特殊スキル持ちだからな。まあ、仕方ないさ。
もう1人も戦闘用じゃないが、有用なスキル持ちだ。
もちろん、リョウも・・・。ちょっと見てな!」
そう言ったグレイシアは立ち上がりながら腰を少しひいた。
「リョウ!!!いくぜっ!!」
そしてリョウに声をかけてダッシュする。
「えっ?!」
あわてて抱きついている2人を振りほどき身体強化をかけるリョウ。
「せいっ!」
グレイシアのショルダーアタックを受け止めながら左足を一歩後ろに下げ
衝撃を和らげる。
「とうりゃっ!」
そのまま左足を軸に腰をひねりグレイシアを半回転振り回して、衝撃の方向を
変えて、上に投げる。
「おわっ!」
空中で逆さになり一瞬無重力状態のようになるグレイシア。
「ていっ・・・よいしょっ・・・と」
リョウはグレイシアの身体を掴んだままの左腕で彼女の体勢を調節して、
左腕で背中、右腕で両足を受け止め、俗にいうお姫様抱っこをする。
「ふうっ・・・て、いきなり何?」
そう言うリョウを嬉しそうに見つめたグレイシアは、その体勢のまま
リョウの頭を抱き寄せ頬に軽くチュッとキスをする。
そして、イザベッラの方を向き、自慢げに左手の人差し指を立てた。
これは、彼女の部族の間で『1番だ』という意味のサインであり、
何かを自慢する意味もある。
グレイシアは、リョウが自分の体当たりを軽くさばくことでリョウの強さを、
キスすることで恋人同士だと示したのだ。
つまり、『こんないい男つかまえちゃったよ~ん』とイザベッラに
自慢アピールしたのである。
「うぐぐぅ~~・・・」
くやしいが、何も言い返せないイザベッラ。
パンパンッ!!
「はいはい、遊びは終わりで~す。出発しますよ~」
マーティアの指示によってコリーヌが手を叩いて注目させる。
「では、王都に帰りましょう」
そう言って馬車に向かうマーティア。
イザベッラに会釈してリョウたちもそのあとに続いた。
マーティアの後方では、アントウェル侯爵家の家臣が何か言いたそうにしている。
どうやら、リョウをアントウェルに派遣してくれるようにという懇願は
拒否されたようだ。
そして、アントウェル一行を置き去りにして、聖女一行は王都シルファンに
向けて出発するのであった。




