211 女子会
「ごめんくださ~~い。朝早くから、すみませ~~ん!」
リョウは、村役場で教えてもらったバウールの鍛冶場に来ていた。
「誰じゃ?!変な呼び方をしとる奴は?」
髭もじゃのドワーフが鍛冶場の奥から出てきた。
もっとも、大人の男のドワーフで髭もじゃではない者を見たことはないが。
地球でも中東あたりでは、髭を生やすのが大人の男性の条件らしいので
似たようなものなのかもしれない。
特に日本人は若く見られがちで、日本ではどう見ても中年としか見られない
髭を生やしてないおっさんが中東の酒場で注文したところ「お前は未成年だから
ダメだ」と言われたとか。
「おはようございます。バウールさんですか?」
「ああ、わしがバウールじゃが・・・」
リョウの問いに答えるドワーフ。
「私は聖女様一行の者なんですが、昨日、金物屋でこれを見つけて気に入りまして
他にもないかと思って来たんですが」
昨日買った両面フライパン改めサンドイッチメーカーを取り出して見せるリョウ。
「おおっ!それのよさをわかってくれたのか!!」
不機嫌だったバウールが一気に上機嫌になった。
「グディーニャ、客だ。茶を淹れてくれ」
そしてリョウを家の中に招き入れる。
「あらあら、いらっしゃいませ。どうぞ、おかけください」
グディーニャと呼ばれたバウールの奥さんらしい女性が出てきた。
「お邪魔します。いきなりですが、これを試食していただけませんか?!」
リョウはそう言いながら、ホットサンドをだす。
「何だ?・・・パンを焼いたもののようだが・・・」
いぶかしげなバウールとグディーニャに事情を説明するリョウ。
「ほう!わしの両面フライパンにそんな使い方があったとは・・・」
「このホットサンドイッチっていうの、簡単に作れていいわね」
2人ともリョウの話にのってきた。
「そこで、ホットサンド専用に改良したものが欲しいんです。図にすると
こんなかんじですね」
リョウは用意してきた改良図を描いた紙を見せる。
「ほう!これは・・・、アイディアもいいが、お前さん絵も上手いのう」
「ほんと、わかりやすくていいわね」
感心するバウールとグディーニャ。
相変わらず技芸神の加護はいい仕事をしている。
そんなふうにホットサンドメーカーの改良について話したり、バウールが
作っていた試作品を見たりしているうちに、聖女一行の出発時間はとっくに
過ぎてしまっていた。
「結局、リョウは間に合わなかったのう・・・」
馬車の中でブレンダが言う。
「まあ、予定のうちですし、途中で追いつかなくても次の村で合流できるでしょう」
とマーティア。
「それより、当人のリョウがいないうちに、さっきの話を聞かせてくれよ」
グレイシアが、リョウとジュリアが会ったときの話をねだる。
「そうですね・・・。それはメイフィールド領のバルダを早朝に発った日の
ことでした・・・」
ジュリアは少し考えたあと、ゆっくりと話しはじめた。
「20匹以上のブラッドウルフを自分は無傷でか・・・」
グレイシアが驚く。
「カテリーナ様がおっしゃっていたのは、そのことだったのですね」
闇夜の黒猫亭での食事会のことを思い出すマーティア。
「そっちもすごいが、本当に走って馬車に追いついたんじゃのう・・・」
とブレンダ。
「はい、整備された街道でしたので馬車も相当な速さだったはずですが
難なく追いついていました」
思い出しながらジュリアが言う。
「その後、オリビア様の頼みに応じて同行してくださったおかげでさらに
いろいろと助けていただいたのですが、そのへんは話すにはちょっと差し障りが
ありますので・・・」
身内による暗殺騒ぎなど、ノーレッジ家の恥になるので話すわけにはいかない。
「あ、でも・・・デートしてこのブローチを買っていただいたときの話なら
出来ますよ」
自慢げに胸のブローチを示しながら言うジュリア。
「いらねーーよ!!」
間髪を入れずに断るグレイシア。
リョウをめぐるライバルの自慢話なんか聞きたいわけがない。
「何じゃ、面白そうではないか」
ブレンダが話に食いついてきた。
「聞きたいです!」
とコリーヌ。
「私も興味があります」
マーティアものってきた。
そして、馬車の中では女子会が始まるのであった。
中東の酒場の話は子供の頃に船乗り(船舶通信士)をしていた父から
聞いたものです。




