206 ヴェストン村その5
そして、金物屋で手に入れた『両面フライパン』の出番である。
いやリョウの用途に合わせて、もう『ホットサンドメーカー』と呼んで
しまおう。
まずは、中に入れる具材の用意である。
まずは基本とも言えるハム&チーズ。これはただ切るだけだ。
卵はどうするか・・・?
茹でるかスクランブルエッグにするか・・・?
後で使えるし、何かのときにそのまま食べてもいいので、とりあえず茹でる。
(2種類とも食事っぽいので、もう一種類は甘いタイプがいいかな?!)
そう考えたリョウはアップルパイに使ったリンゴの砂糖煮を思い出す。
今回は、この3種類でいいだろう。
次にリョウは収納バッグからいろいろな種類のパンを取り出し、ホットサンド
メーカーの大きさと比べ合わせる。
ホットサンドメーカーを3種類買ったので、それぞれの大きさに合うと
思われるパンを選んで1cmほどの厚さに切り、それぞれを開いたホット
サンドメーカーに乗せる。
「リョウ、はみだしておるがいいのか?」
ブレンダが聞く。
ブレンダとジュリアもリョウと一緒に調理場にいた。
ジュリアは手伝いだが、彼女は見てるだけである。
「それが大事なポイントなのです。まあ、食べるときにわかります」
とリョウ。
「うぐぅ・・・、お主はそのもったいぶる性格がイカンぞ」
ブレンダは頬を膨らませる。
「ていっ!」
「ぶっ!」
リョウはブレンダの両頬を両手ではさんでふくれた頬をつぶす。
当然、中にあった空気が押し出され、口から出た。
「なっ!何をする?!!」
唇についた唾を右手で拭きながら文句を言うブレンダ。
「膨らんだものが目の前にあったらつぶしたくなるでしょ?!」
仕方ないじゃないかという雰囲気のリョウ。
「わしは、フーセンガエルか?!!!!」
フーセンガエルとは、魔国の水辺のどこにでもいるカエルで、危険を察知
すると膨らんで威嚇するフグのような性質がある。
魔族の子供は、それでキャッチボールをしたり、破裂させたりして
遊ぶということだ。
そんなことをしながらも、調理は進んで行く。
卵は茹で卵を潰してマヨネーズであえたフィリングにした。
(たしか片面2分だったよな)
そう思いながら歌を歌いはじめるリョウ。
リョウは、時計がないときでも経過時間がわかるように1分・2分・3分の
長さの曲をそれぞれ覚えているのだ。
当然、今回は2分用の曲である。
本当は料理をしながら歌を歌っては問題があるが、今回はサンドイッチ
メーカーでの調理なので衛生上も大丈夫だろう。
「おっ、なかなかの美声じゃな。それに洗練されたよい曲じゃ」
ブレンダが感心したように言う。
「当然です!リョウは王都の王立演劇場でソロで歌ったこともあるんです!」
ジュリア、なぜか自慢げである。
「ほう、武術に聖魔法に料理、そして歌までこなすか、多芸じゃのう・・・」
ブレンダにそう言われて褒められても神から与えられたものなので、
リョウにとってはそんなに嬉しくもない。
料理だけは、ほぼ実力だが。
リョウは両面を焼いたホットサンドをまな板に乗せ包丁で半分に切って
断面を見る。
「うん、いい感じですね」
ハムにはさまれたチーズがとろりんである。
「お~~!!リョウ!それをよこすのじゃ!!」
ブレンダが催促するが、
「ダメですよ。皆と一緒に!です」
当然、リョウは許すわけがない。
「う~・・・」
不満そうなブレンダを無視してリョウは次々とホットサンドを焼き上げて
いくのであった。




