204 ヴェストン村その3
「リョウ、まだ散歩するのか~?戻ってその軽食を作ってくれ~!」
ブレンダは待ちきれないようだ。
「ちゃんと、お茶の時間にだしますって。というか、いい子にしてるんじゃ
なかったですか?!」
ちょっとイジワルを言うリョウ。
「うっ・・・」
ブレンダ、ちょっとひるんだがすぐに持ち直す。
「わかったのじゃ。でも、その代わりあのデカ女と同じ量をだすんじゃぞ!」
「・・・ったく・・・もう・・・」
しょうがないという顔のリョウ。
リョウたちがそんな会話をしながら歩いて行くと、どこからともなく
『ヨイサ!ホイサ!』
という何人もが声を合わせたかけ声が聞こえてきた。
「ジュリア、このかけ声、どこから聞こえてくるのかわかる?」
かけ声が気になったリョウはジュリアに聞く。
「はい。あっちの大きいレンガ造りの建物からです」
視聴覚強化スキル持ちのジュリアはあっさり答える。
言われた方を見れば、何かの工場のような建物があった。
「ほう?!そのほう、ジュリアと言ったか・・聴覚系のスキル持ちかや?」
ブレンダ、ジュリアのスキルに気づいた。
「おかげでとても助かってます」
ジュリアを優しい目で見るリョウ。
ジュリアも見つめ返す。
「やめい!!」
キックオフしようとした2人を邪魔するブレンダ。
「2人で勝手に世界を作ろうとするでないわ!」
とかやっているうちに、その建物のそばに来ていた3人。
かけ声もはっきりと聞こえる。
「おい!危ないから近づかないでくれ!」
開いていた入り口から中を覗こうとしたリョウに気づいたドワーフが
注意する。
「あ、すみません。何をやってるんですか?」
そのドワーフにリョウが尋ねる。
「鉱石を溶鉱炉で溶かしてるのさ。お嬢ちゃんたちのキレイな肌に
火傷の跡がついたら大変だろ?!」
かけ声は、溶鉱炉に空気を送り込むための『ふいご』を大人数で動かすときに
タイミングを合わせるためのものであった。
それを見て、昔見たアニメを思い出すリョウ。
そのアニメでは女たちが体重をかけるために足で踏んでいたが、
ドワーフたちは、その腕力にものを言わせて腕で動かしている。
「黙れ!!小僧!」
建物の中からいきなり怒声が聞こえ、ビクッとなるリョウたち。
「そんなことはわかっとるわい!!だが、アイオロスが全部持っていっち
まったんだ。仕方ないじゃろうが!」
リョウが入口からそっと中を覗いてみると、さっき村の入口で出迎えて
くれた2番工房の親方のダストンが若者(といってもひげ面でリョウには
歳がよくわからないが)を怒鳴りつけているところだった。
「どうしたんですか?」
リョウが目の前のドワーフに聞く。
「ああ、一番工房のアイオロス親方が出張に行くときに、銅の地金の在庫を
全部持っていっちまったんだ。おかげで溶鉱炉を稼動させて銅を作らなくちゃ
ならなくなっちまってな。予定が狂って、皆イライラしとんるじゃよ」
「ソレハ、タイヘンデスネー。デハ、シツレイシマスー」
棒読みの台詞で工場を後にするリョウ。
アイオロス親方が持っていったという銅は、間違いなくガリアで作られる
大型蒸留器の材料である。
このことも聞かなかったことにするリョウであった。




