02 指パッチン
その部屋は絵に描いたようなオタク部屋だった。
壁にはポスターやタペストリーが貼られ、本棚にはラノベや漫画が並び
棚には美少女フィギュアやロボットが陳列してあった。
部屋の主・深浦竜馬はパジャマ姿でモンスターを狩るゲームをプレイしていた。
「誰だお前は?!鍵は?!」
いきなりの侵入者にとまどいながら問いかける。
「政府の者ってちゃんと言ったッスよ。鍵はチョチョイと開けたッス。」
「チョチョイって・・・」
とツッコもうとした竜馬をさえぎる美香。
「じゃ、お母さんの許可もいただいてるので、さっさと出かける用意をするッス。」
「ハァ?!何を言ってるんだ。」
当然、断る竜馬。
「どうせ行くことになるんだから、時間がもったいないッスよ・・・
おや、かわいいフィギュアッスね?!」
棚に並んでるフィギュアに眼を向ける美香。
危険を感じて、コントローラーを置き、美香と棚の間に割り込む竜馬。
「何をするつもりだ、俺のコレクションには指一本触れさせないぞ!」
そんな竜馬に微笑みながら美香が答える。
「触れる必要なんてないッスよ、ほれ!!」
パチン
美香が右手の親指と人差し指を動かし音を鳴らす。
俗に言う、指パッチンである。
何のつもりだと、竜馬が尋ねようとしたところ・・・
コトン
後ろにある棚から物が落ちる音がした。
「えっ?!」
振り向いた竜馬の目に映ったのは首のないフィギュアと落ちた首。
わけがわからない竜馬が再び美香の方を向くと
「1つじゃわかんないッスかね、じゃ・・・」
パチパチパチパチン
両手で連続指パッチンをする美香。
コトコトコトコトン
鳴らした指パッチンと同じ数のフィギュアの首が落ちる。
あまりのことに竜馬は何か言う余裕もない。
「まだダメッスか?!強情ッスね。」
強情とかではなく、あまりのことに思考停止して反応出来ないのだが、
そんなことは気にせず美香はさらに指パッチンを続ける。
パチパチパチチンパチパチン
縦に真っ二つになり、左右に分かれて倒れる超合金ロボット。
十文字に切り裂かれたポスター。
ゲーム機はカットディスプレイモデルのようになっていた。
「やめろーーーー!!!」
やっと再起動した竜馬。
「なんで、なんでこんなことするんだよ~~~~・・・・」
目に涙を浮かべながら抗議する。
「あんたがさっさと仕度しないからッス。まだゴチャゴチャ言うなら・・・」
美香がパソコンとディスプレイに目を向ける。
「わかった!!わかったから!!!」
あわててパジャマを脱ぎはじめる竜馬。
女性が目の前にいるなんてことも、気にする余裕はなくパンツ1枚になる。
タンスから服を取り出して着る竜馬に、美香が言う。
「あ、持って行く物は何もいらないッスから。財布も替えの下着も必要ないッス。」
何を言ってるんだと言いたい竜馬だが、あのわけのわからない力を
見せ付けられた後では黙って従うしかない。
竜馬が着替えおわったのを見ると
「おっと、さすがにこのままじゃあんまりッスね。」
美香は意地の悪そうな笑顔を浮かべ、また指を・・・・
パチン
「ひっ!」
一旦首をすくめたリアクションをした竜馬が、今度は何が切られたのかと
周りを見ると・・・・切られたはずの物がすべて元どおりになっていた。
「え・・・・?!」
自分を見る竜馬に、美香はとてもいい笑顔で答える。
「やだな~~~、指パッチンで物が切れるわけないッス。
ちょっと催眠術で、そう思わせただけッス。」
「は?!」
素晴らしきかと思ったら眩惑だった。
何を言ってるのかわからないと思うが、俺もわからない。
とりあえず竜馬は、考えるのをやめた。