198 パイふたたび
同行を了承されたブレンダは、宿に帰って行った。
帰って行くと言っても、同じ建物なのだが。
実はリョウがブレンダの隠形を見破れたのも、同じ建物に
いたのでサーチでずっと見張ることができたおかげである。
ブレンダの反応が移動し下の階の階段の近くにきたときスッと消えたため、
サーチの範囲を狭くして強化したところ、何とか見つけることが出来たのだ。
ブレンダがサーチの反応外から隠形で近づいてきた場合、見つけることは
ほぼ不可能だろう。
もちろん、それはブレンダにはヒミツである(笑)。
ちなみに彼女のスキルの魔力の翼の触手(混沌の翼というそうである)の
消滅は、聖魔法の魔力をぶつけたのである。
混沌の翼が闇魔法の魔力を物質化させたものなら聖魔法で
なんとか出来ないかと考えたのだ。
マーティアは聖属性の魔力制御が上達していたおかげで、ダーク聖女に
なっての闇属性魔法の制御も上達しており闇魔法の魔力の物質化もわずか
ながら出来るようになっていた。
そして、試してみたところ、それをリョウの聖魔法で相殺出来たのである。
夕方、村長への報告後、マーティアに『試したいことがある』と言って
付き合ってもらったのはこれであった。
そして、部屋に戻ったブレンダ。
「なるほど、聖魔法、しかも相当な使い手じゃ」
ブレンダのデコピン跡を治したヒールでリョウが聖魔法の使い手ということが
わかり、そこから混沌の翼を消滅させたのが聖魔法だと気づいたようだ。
「わしの闇魔法とは正反対じゃが逆に相性がいいかもしれんのう・・・」
楽しそうに言うブレンダに、スツーカは短く『クアッ』と返事をするのだった。
夜が明けた。
リョウは昨日にひき続いて今朝もパイを作っていた。
今回は村長からの正式な依頼である。
村役場の職員のマリーの先輩から伝わったらしい。
この村の名物にしたいということで、今回はマリーの他にもう1人、
手伝い兼記録係としてエリーという職員もいる。
名産とするためには、村で簡単に供給できる素材でなければならないので、
ミートパイは羊肉を使い、アップルパイではなくアプリコットパイを
作ることにした。
そして、出来たパイの試食を兼ねて朝食である。
リョウは、マリーとエリーに手伝ってもらい、1つの皿に羊肉のミートパイと
アプリコットパイを切ってそれぞれ半分ずつにしたものを配膳していく。
「ん?!リョウ、1つ多くない?」
ジュリアが聞く。
たしかに、マリーとエリーの分を入れても1皿多い。
「いえ、ちょうどです。ブレンダさん、横からつまみ食いしようなんて
思ってないでしょうね?!ほら、ちゃんと座ってください」
リョウが部屋のすみに向かって話しかける。
全員の注目がその方向に集まる。
「う~む、やはりバレておったか・・・」
昨夜と同じように、薄い霧のようなものがだんだん濃くなってブレンダが
現れる。
今朝は、スツーカも一緒である。
どうやらブレンダ、つまみ食いついでに隠形が見抜かれた理由も
確かめにきたようである。
追跡サーチしておいてよかったと思うリョウ。
「「 ひっ!! 」」
驚くマリーとエリー。
「大丈夫です、すみませんいたずら好きなもので・・・」
リョウがフォローする。
「聖女様、そして皆さん、おはようなのじゃ」
きちんと挨拶するブレンダ。
身分を隠し、平民としてふるまうようにしたようだ。
もっとも、口調は変える気がないようだが。
「おはようございます、ブレンダさん」
「お、おはよう」
「おはようございます」
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マーティアをはじめ、それぞれブレンダに挨拶する。
そして全員が席に着き、試食兼朝食である。




