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「信じられん・・・」
ブレンダにとって、リョウの話すニホン国は想像をはるかに超えていた。
「まあ、無理に信じる必要はありませんけどね」
軽く返すリョウ。
「聖女殿は信じておるのか?!」
ブレンダがマーティアに聞くが、
「その前に、ブレンダさんは自分が魔族の王家の者だということを
隠す気があるんですか?」
マーティアが答える前にリョウが質問する。
「どういう意味じゃ?」
「聖女様に対して‘殿’をつけて呼ぶなんて、王族しかいませんよ」
「あ!!」
ブレンダ、自分の家名を言い当てられた理由がやっとわかったようである。
「半分はカマをかけたようなものでしたが、大当たりだったようですね。
それから、もちろん私はリョウ様を信じておりますよ」
いたずらが成功したときの子供のような表情でマーティアが言う。
「そういうことじゃったか、改めて自己紹介しよう。わしはブレンダ・C・
アウグスト、当代の魔族の王、グレゴリオの娘じゃ」
「本当に姫様だったんですね。それで、今後はどうします?」
リョウが聞くが、
「どうするも何も、関わらなければ済むことじゃないんですか?!」
横からジュリアが言う。
「そうだよな、狩りを手伝ってもらったことについてはちゃんと報酬を
払ったし、魔族の姫様なんて関わると面倒だ」
グレイシアも同意する。
「お、お前達、冷たすぎないか?!異国を1人寂しく彷徨う
薄幸の美少女の力になってやろうとは思わんのか?!」
変にクネクネした動作をしながら言うブレンダ。
どうやら、ひ弱さを表現しているつもりらしい。
「王族という時点で薄幸ではないですよね。それに、普通にサバイバル生活
してたんでしょ?!」
コリーヌまでツッコんできた。
「う~~~~~・・・・・・」
「まあまあ、それぐらいで・・・」
マーティアが3人を止める。
「それで、結局、ブレンダ様はどうなさりたいのですか?」
「しばらく同行させてもらえんかの?!やはり1人は寂しいし、いろいろと
不便でのう・・・」
ブレンダ、まだひ弱演技を続けている。
「なぜこの国にいらしたのですか?」
マーティアが聞く。
「ああ、父の決めた結婚相手が公爵家のバカ息子での。それが嫌で
飛び出してヌマーナ国に上陸したのじゃが、追っ手に見つかっての、
山を越えてこの国に入ったのじゃ」
「それであんなところにいたのですね・・・とはいえ、そちらのゴタゴタに
巻き込まれたくはないのですが・・・」
困ったように言うマーティア。
「いいではないか!のう、リョウ!」
リョウの手をとるブレンダ。
「なぜ、私に言うのですか?」
「乙女の身体につけた傷の責任をとるのじゃ!!」
額のデコピン跡を指差しながら言うブレンダ。
「仕方がないですねぇ・・・」
そう言ってリョウは右手のひらをブレンダに向けて前に出す。
「え?!」
またデコピンかと、あわてて両手で額を防御するブレンダ。
リョウは、かまわずにブレンダの額の手に自分の手のひらをあてる。
「ヒール!」
ブレンダの額のあたりが光で包まれ、そして消える。
「はい、きれいに治りましたよ」
「ええっ?!」
驚くブレンダ。
これでブレンダの言う『責任』はなくなったはずだが、
「マーティア様、せめて王都までブレンダさんを連れて行っていただけ
ませんか?!」
リョウは、マーティアにブレンダの同行をお願いする。
「はぁ・・・リョウ様ならそうおっしゃいますよね」
仕方ないという表情をした後、微笑みながら言うマーティア。
ジュリア、グレイシア、コリーヌも『結局こうなるのか』とあきらめた。
かくして、ブレンダが王都まで同行することとなったのであった。
スツーカは、宿の部屋でお留守番してます




