193 また・・・
「じゃ、私、仕事があるから」
マリーの先輩は、そう言って食堂を出て行った。
「とんでもなくマイペースな女じゃのう・・・」
ブレンダが呆れたように言う。
「はあ・・・すみません・・・」
なぜか謝るマリー。
「それはともかく、結局パイはないということか?!」
ブレンダが、がっかりした様子で言う。
マリーは、『はっ』として
「ダメですよ、これは!」
残った半分のアップルパイが乗った皿を両腕で抱くようにしてガードする。
「ははは・・・、とったりせんよ。わしも、そこまでわがままではないぞ」
先輩にアップルパイを半分とられたマリーに『寄こせ』と言うほど、
ブレンダも鬼ではない。
「ただ、そういうことなら、欲しかったらリョウから貰うか作らせるか
しかないということか・・・」
「そうですね。リョウ様が帰ってきたら頼んでみましょう」
自分も食べたいので、そう言うマリーである。
そして、2~3時間の後、帰ってきたリョウをブレンダが出迎えたのであった。
(190話のラスト参照)
「おや、ブレンダさん、来てたんですか」
普通に挨拶するリョウ。
「お主たちも冷たいのう、ここに戻るついでにわしも馬車に乗せてくれても
よかったのではないか?!」
唇を尖らせるブレンダ。
「あははは、すみません。でも、あの後も村人の治療の予定がありましたし、
警護の関係で、身元の確かじゃない者を乗せるわけにはいかないんですよ」
「ああ、マーティア殿は聖女だそうじゃな。そして、お主は賢者だとか・・・」
「ははは・・・、マーティア様はそうですが、私の場合はそう名乗った方が
話が早くなるので言ってるだけですから、あまり気にしなくていいですよ」
リョウは、ちょっと気まずいというふうに、言いながら自分の頭を掻く。
「3歳で読み書きと計算が出来た神童だと聞いたのじゃが?!」
さっき聞いたことを話すブレンダ。
「ぶっ!!!!!!」
リョウは思いっきり吹き出した。
「げほほっ、だ、誰ですか?そんなデマを流すのは!!」
咳き込みながら言うリョウ。
「村役場の職員から聞いたのじゃが、違うのか?」
ブレンダが小首を傾げながら言う。
「違いますよ。単に私の国の文明が数百年すすんでいるだけです」
必死に否定するリョウだが。
「は?!」
逆に意味がわからず、目が点になるブレンダ。
そのとき、リョウの左腕ががしっと掴まれた。
「ほら、リョウ!立ち話なんかしてないで、村長のところに報告に
行くぞ!!」
掴んだのはグレイシアであった。
そのまま、リョウを村役場の中に引っ張っていく。
「あ、はい。ブレンダさん、失礼しますね」
そう言いながら、リョウは役場の中に引きずられて行った。
「失礼しますね」
マーティアたちもブレンダに軽く挨拶したり会釈したりして後に続く。
そして、またブレンダは取り残されるのであった。




