191 村役場
リョウたちと別れた・・・というか、置いてけぼりにされたブレンダ。
撤収のあまりの手際のよさに唖然としたブレンダだが、
「リョウたちの去った方に行けば集落ぐらいあるじゃろ。ここは高地じゃから
とりあえず下っていけばいいじゃろうしな」
すぐに気を取り直し、そう言って肩に乗っている鳥を見る。
肩の鳥『スツーカ』は、クェー!と返事をすると、上空に飛び立ったが、
その様子がおかしかった。
普通の鳥ならバタバタと羽ばたきをするはずだが、肩から飛び降りながら
翼を広げ、グライダーのように滑空してそのまま上昇していったのだ。
魔族のブレンダの供をしているだけあって、やはりただの鳥ではないようだ。
というか、本当に鳥なのかも怪しい。
そして、数分後、のんびり歩いているブレンダのもとに戻ってきたスツーカ。
「そうか、こっちに家があるのだな」
そう言ってブレンダは、体力強化魔法をかけスツーカの見つけた家:
フランツ家に向かって走った。
そして、フランツに道を教えてもらったブレンダは、1時間後には
村の中心地に着いていた。
村に入る前に、角を隠すためキャスケットと言われる野球帽のつばを
短くして、頭の入る部分をふんわりふくらませた帽子をかぶる。
もちろん、フランツ家に行ったときもかぶっていた。
まあ、この国では魔族を見たことのある者はほとんどいないので
角を見られても、そういう系統の獣人と思われるだろうが、念のためだ。
翼は魔力で出来ているので、出し入れ自由である。
「さて、まずは食事じゃな。あの男に聞いてみるとするか・・・」
そう言って、目についた男に近寄り食事をだす場所を聞く。
「こんな田舎の小さな村だから、役場に食堂も酒場も宿屋もギルドも
集まっとるよ・・・あそこだよ。」
そう言った男は、村役場の建物を指差す。
男は、田舎の小さな村と言ったが、あちらこちらで建物を修理しており、
忙しそうに働く者たちが行き交っていて、なかなか活気がある。
(祭りでもあるのかの?)
と思うブレンダ。
とりあえず教えられた建物に入り中を見渡す。
1階は吹き抜けのホールになっており、奥に大きめのドアとその左右に
2階へ上がる階段がある。
入り口から見て右側には、役場やギルドの受付が並んでいる。
受付は区切られてはいるが、中は繋がっていて、職員は兼用になっているようだ。
左側には、酒場を兼ねた食堂があり、宿の受付らしいものがあった。
「ふむ、とりあえず今夜の宿の確保かの・・・野宿も飽きたしの」
宿の受付に行くブレンダ。
「泊まりたいのじゃが、これで何泊ぐらいできるかの?」
宿屋の女将っぽい女性に話しかけながら、マーティアから受け取った
金貨を1枚見せる。
「おや、金貨かい。それなら、朝夕の食事付きで2週間以上は泊まれるよ」
5枚で平民の月収の2~3ヶ月分というマーティアの話は、だいたい
正しいようだった。
「ふむ、ではとりあえず食事付きで1泊頼む。食事はすぐ出来るかの?」
「ごめんよ、夕食の時間には早すぎるので、まだランチは出来ないんだよ。
何か頼むなら別料金になっちゃうねぇ」
確かに、午後3時ぐらいの中途半端な時間であった。
「そうか。では、ワインと軽食・・・そうじゃ、ミートパイと
アップルパイを頼む」
「は?!」
「ん?!」
「何だい?そのミートパイとかアップルパイとかいうのは?」
女将が聞く。
「知らんのか?!肉やリンゴとかがサクサクの生地に包まれてこんがりと
焼かれた物なんじゃが・・・」
身振りをまじえながら説明するブレンダ。
「包み焼きの一種かねぇ?!聞いたことないけど・・・」
「さっき、食べたばかりなんじゃが・・・」
そのとき、食堂から声がした。
「先輩!アップルパイ、返してください!!」
「こんないいものを1人で食べようなんてダメよ!」
「「 え?!!!! 」」
顔を見合わせるブレンダと女将であった。




