18 マリエールとフェルナンデス
リョウは、報酬の一部として、服をもらい着替えていた。
「あら、似合うわね。生まれながらの貴族みたいよ」
イレーネはニコニコである。
あの後、ついでということで、全身をサーチしヒールした。
言うなれば、全身整体&エステのようなものである。
おかげで、イレーネは、身体が軽く感じられ、
外見は10歳ほど若返ったように見えた。
知らない人にはアンジェリカと姉妹だと言っても信じるだろう。
アンジェリカがいれば、自分もやってくれとうるさかっただろうが
シュタイナーと話があると、リョウのことはイレーネに
まかせて退室していた。
アンジェリカがいたとしても、怪我や病気の治療でもないのに、
夫であるメイフィールド伯に無断で身体に触るわけにはいかない。
(イレーネの夫は、3年前に病気で亡くなっている)
面倒なので、イレーネに『アンジェリカ様には内緒に・・・』
と言ったが、このウキウキ具合では、たぶんばれるだろう。
リョウは、やりすぎたと、少し後悔した。
「じゃ、食堂までエスコートしてくださる」
イレーネは、リョウの左腕に自分の右腕をからめる。
もちろん、リョウに拒否権はない。
「胸をはって、堂々と歩くのよ。エスコートされる女性に
不安感を与えないことが一番大事よ」
イレーネにうながされ廊下を歩くリョウ。
「使用人に頭を下げてはダメ、軽く見られてしまうわ。
今のあなたは貴族のお客様なのよ」
庶民のリョウには難しいが、これからのことを考えたら
こういうふるまいも身に着けたほうがよいと思い、
慣れるようにする。
食堂のドアは開いており、執事と思われる男性が控えていた。
「大奥様、お元気になられてなによりでございます。
心なしか、若返られたような」
「あら、あなたもそう思う?!リョウのおかげで
とても調子がいいのよ」
執事の言葉に、嬉しそうにイレーネが答える。
「リョウ様、アンジェリカ様ばかりか大奥様まで
助けていただきまして、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらもお世話になってますから」
無難に挨拶をしておく。
「ところで、このお召し物は、大旦那様の・・・」
「ええ、他にサイズが合う人もいないし、リョウに
ちょうど合ったから。なかなか似合うでしょ」
イレーネの亡くなった旦那さんは、リョウと同じぐらいの
体格だったようだ。
「ええ、まるでお若い頃のお2人のようです」
「あら、ん・・・」
イレーネが、リョウの腕を掴む力が強くなった。
ちょっとてれているようだ。
「「おばあ様!」」
食堂に入ると、子供が2人、走り寄ってきた。
12~3歳ぐらいの女の子と少し年下と思われる男の子だ。
「おばあ様、よくなられたのですね」
「ええ、彼のおかげで、もうすっかり元気よ」
子供達の視線がリョウに集まる。
「イレーネ様の治療のために参りました、リョウと申します」
リョウが挨拶する。
「おばあ様を治していただき、ありがとうございます。
マリエール・ガリアですわ」
金髪青眼の絵に描いたような貴族のお嬢様が挨拶する。
「フェルナンデス・ガリアだ。お前は強いのか?」
シュタイナーに似た顔つきの男の子の方は、順調に脳筋への道を
歩んでいるようだ。
「剣も格闘も人並みには、たしなんでおります」
無難に答えるリョウだが。
「ふん、弱い奴は、たいていそう言うのだ。試してやる!」
ボクシングのような構えをとるフェルナンデス。
「「「え・・・?!」」」
繰り出そうとしたパンチは、リョウの右手の人差し指1本で
止められていた。パンチの出がかりをすばやく押さえたのである。
「フェルナンデス様、食堂で暴れてはいけませんよ」
そう言いながら、子供達から離れる。
「旦那様たちを、どのようにして待てばよいのでしょうか?」
社会人の心得としては、立って待ってないといけない場合が
あるので、イレーネに尋ねる。
「ああ、うちは先に座っていていいのよ。ほら、あななたちも
座りなさい」
イレーネは、驚いて固まっていた子供達にも声をかける。
リョウはと言えば、とっさにやったこととはいえ
(パンチを指1本で止めるなんて、ケ○シ○ウみたいで、
かっこよかったんじゃない?!俺!!)
と、表面は落ち着いてみせていたが、心の中ではご満悦だった。




