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177 ブカーブ村

聖女一行は山道を登っていく。


ふもとのチャタム村から目的地のブカーブ村まで直線距離は

たいしたことはないのだが、上り坂でさらに難所が2箇所あったために、

着いたのは予定より1時間も後であった。

それでも、日が落ちる前に着いたのは幸いであった。


村と言っても、ぱっと見た範囲に建物は10棟ほど建っているだけ。

しかも、人の住む家は村長の家ともう一軒だけであとは村役場や倉庫だそうだ。


放牧型の酪農や羊毛業が主な産業なので、他の村人の家はそれぞれ

数百mずつ離れるような形で、この一帯に散らばっている。

よって人口は150人ほどなのに、牧草地などを含めた村全体の広さは

王都より広い。

しかも、高低差がとんでもないので、一番遠いところにある家は、

この村役場がある場所まで徒歩で3時間以上かかるそうだ。


前もって連絡し、先触れをだしていたので、20人ほどが出迎えのため

村の出入り口で待っていた。


簡単な挨拶の後、マーティアたちは村役場の接客室に案内される。


残りの者たちは、野営の準備の予定だったが、ちょうど羊の毛刈りの

シーズンが終って出荷された後で、半分以上の倉庫が空いているので、

好きに使ってよいと言われた。


というわけで、テントを張る代わりに倉庫の掃除をして泊まれるようにする。


そのついでに、職人たちは倉庫の傷んだ部分を修理する。

明日、リョウたちがボムリザードの狩り&駆除に行っている間に、

チャタム村でやったように作業をする予定なので、そのときに

修理するより今やっておけば、今夜をより快適に過ごせるということだ。




マーティアに同行したのは、リョウ、ジュリア、コリーヌ、グレイシア、

そして神殿騎士が1人である。


「どうぞ、お掛けください」

村長がマーティアにソファーに座るように勧める。


「はい。リョウ様、そちらに」

マーティアはリョウに隣に座るように言う。


「え?!」

マーティア以外は立っていると思うのが普通であったため驚いて、

声がでてしまう村長。


「こちらは、異国の大賢者リョウ様。いろいろと教えをいただいております」

マーティアが紹介する。


「失礼しました。てっきり護衛の方だと思ったもので・・・」

村長があわてて言い訳をする。


「いえ、護衛も兼ねていますし、こんな格好ですので」

何かあったときのために、リョウは冒険者スタイルであった。


「この方が、今回のボムリザードの件をパトリシアさんに頼まれ、

それを聞いて私達も協力することになりました」

今回、ここに来た理由を説明するマーティア。


「聖女様が教えを乞うような大賢者様が、どこでパトリシアとお知り合いに?」

賢者と言うには若すぎるリョウを若干うさんくさいというような目で

見る村長。


「はははは・・・・賢者と言われるようなものではないんですが・・・

私の国の文明がこの大陸よりすすんでいるだけですので」

笑ってごまかすリョウ。

「パトリシアさんとは、たまたま王都の演劇場に行ったときに知り合いました。

そのときにボムリザードの駆除について相談されて、それを聖女様に

話したところ、協力してくださることになりました」


「今回は救済の旅の一部としてですので、多少の協力はしていただきますが、

報酬などはいりませんので」

続けてマーティアが説明する。


「それでいいのですか?」

村長が確かめるように言う。


「はい。狩った魔物の素材は全てこちらがいただきますので、それが

報酬のようなものだと考えていただければ結構です」

マーティアはリョウのほうを見ながらさらに言う。

「たぶん、たいした手間はかからないと思いますし」


神界で鏡スマホに映るリョウの戦いぶりを見たマーティアは、

リョウにとってボムリザードを一撃で絶命させることは難しくないと

確信している。


だが、村長たちは、その言葉の意味がわからないというような顔をしていた。


「倒すだけならそうでしょうが・・・」

マーティアが、『瀕死になったら爆発して素材としての価値がなくなる』

というボムリザードの性質を知らないのではないかと不安になる村長。


「仕方ないですね」

マーティアの視線で彼女の望みを察したリョウは、やれやれという感じで

立ち上がる。


「不安をなくしたいと思いますので、すみませんが外に行きましょう」


(まあ、これもお約束みたいなものだよね)

と思いながらドアを開けるリョウであった。

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