176 天丼
「ちわ~!天丼の出前で~す」
物見櫓に登ったリョウは、明るく声をかける。
相手はもちろんジュリアである。
食事時間中も監視をしていたのだ。
「天丼??」
「お昼にだした天ぷらをお米を炊いた御飯に乗せたものです」
と言っても、ジュリアは今まで天ぷらを見たこともないのだから、
あまり説明になっていない。
「ああ、皆、おいしそうに食べていましたね」
視覚強化スキルでちゃんと見ていた。
天丼にフォークとスプーンを添えて渡す。
さすがに、先割れスプーンはない。
「わあ、おいしそうです」
天丼の具は、エビ2本にシイタケっぽいキノコ、ピーマン、タマネギ、
ニンジン、豚肉である。
実はエビはリョウが王都の市場で買った分だけしかなかった。
しかし、天ぷらにエビがないというのはさみしいと思ったリョウは
自分と聖女たちだけにだすことにしたのだ。
いいよね、どうせ他の者は食べたことないんだし。
「スープもどうぞ」
持ちやすいようにマグカップに入れたスープを渡す。
そしてリョウも一緒に食べ始める。
「天ぷらを揚げるときも使ってましたが、食べるときも棒なの?!」
箸を見て言うジュリア。
「これは箸と言って、ニホンでは大事な食器です。
これを上手く使えない者は育ちや教育が悪いと判断されたりもするんですよ」
箸を広げたり閉じたりしてみせるリョウ。
「そのうち、使い方を教えてください」
これからもリョウの側にいて、ニホンの文化も身につけたいと思う
ジュリアであった。
昼食後、聖女一行は出発の準備を終え、村の出入り口に来ると
村人達が集まっていた。
もちろん、聖女一行を見送るためである。
リョウが治療したカイラやフィンたちが神使・タイガ様にご挨拶をと
言ってきたが、タイガは人前に出るのが苦手だということにして
断った。
「聖女様、そしてご同行の皆様、いろいろとありがとうございました」
村長が代表して礼を言って頭を下げる。
後ろに控えている冒険者ギルドや商業ギルドのギルマスや職員、
そして回りにいる村人達も同じように頭を下げる。
「お役にたてたなら何よりです」
そう言って、両手を広げるマーティア。
「皆様に神のご加護を!」
言葉とともに集まっていた村人の上空に魔力を放出する。
ここ数日の訓練で、マーティアの魔力制御は飛躍的に上達していた。
可視化された魔力は上空で広がり淡い聖属性の光を乱反射させながら
落ちてきて村人達を包んでいく。
歓声を上げる村人たち。
マーティアは軽くお辞儀をして馬車に乗り込む。
そして護衛隊長の号令とともに一行は出発するのだった。
次の目的地は、いよいよ歌姫パトリシアの出身地、アラバンド地方の
ブカーブ村である。




